オルレアン美術館

オルレアン美術館

フランス、ロワール地方の美しい街オルレアンに佇むオルレアン美術館（仏: Musée des beaux-arts d'Orléans）は、二世紀以上の歴史を持つ重要な文化施設です。1797年にその扉を開いて以来、地域のみならず国内外から多くの美術愛好家を迎えています。

沿革

オルレアン美術館は、フランス革命期の動乱の中で誕生しました。革命によって散逸した貴族や教会、あるいは接収された王室のコレクションの一部が集められ、市民に公開される形で設立されたのです。これは、知識や文化を少数の特権階級から解放し、広く市民と共有しようとする時代の精神を反映したものであり、その設立年はフランスの多くの主要美術館の成立と軌を一にしています。

コレクション

当館のコレクションは、15世紀から20世紀までの幅広い時代の芸術作品を網羅しており、その総数は多岐にわたります。収蔵されているのは、約2,000点の絵画、700点の彫刻、1,200点を超える装飾美術品、そしてデッサン約10,000点、版画約50,000点を含む、合計6万点以上にのぼる膨大な資料です。これにより、来館者はルネサンス期から近現代に至るヨーロッパ美術史の豊かな流れをたどることができます。

絵画

絵画部門はコレクションの中核をなし、イタリア、スペイン、フランドル、ドイツ、そしてフランスといった主要な地域の作品が展示されています。

特にイタリア・スペイン絵画では、ルネサンス期のマッテオ・ディ・ジョヴァンニやジローラモ・デル・パッキア、コレッジョ（「聖母子と幼児の聖ヨハネ、聖ヨセフ」など）やティントレット（「座る髭の老人像」）といった巨匠の作品が見られます。また、17世紀から18世紀にかけての作品群も充実しており、アンニーバレ・カラッチ（「羊飼いの礼拝」）、グイド・レーニ（ルーヴル美術館版とは異なる「ゴリアテの首を持つダヴィデ」）、そしてフランス国内では希少なベラスケスの作品の一つである「聖トマス」（1619-20年頃）などが収蔵されています。他にもマッティア・プレーティやセバスティアーノ・リッチらの作品を通して、バロックからロココにかけての変遷を追うことができます。

ヨーロッパ北部（ドイツ、フランドル）の絵画コレクションも特筆に値します。最も古い時期の作品としては、マリヌス・ファン・レイメルスワーレの作品が挙げられます。17世紀には、アンソニー・ヴァン・ダイク（「髭の老人像」）、ヤン・ブリューゲル（父および子）、ヨース・デ・モンペル（「冬景色」）、ヤーコプ・ファン・ロイスダール（「桟橋の上の羊の群れ」）など、フランドルやオランダ黄金時代の主要な画家たちの作品が並びます。これらの作品からは、写実的な風景表現や市民生活、神話的主題など、当時の北方美術の多様な側面を見て取ることができます。

さらに、フランス絵画においては、アントワーヌ・ヴァトーやフランソワ・ブーシェといったロココ美術の代表格から、ユベール・ロベール、ウジェーヌ・ドラクロワ、ギュスターヴ・クールベ、ポール・ゴーギャン、そしてパブロ・ピカソといった近現代の巨匠に至るまで、幅広い時代の作品が収められています。これにより、フランス美術の豊かな歴史を概観することが可能です。

その他のコレクション

絵画に加えて、700点に及ぶ彫刻作品も収蔵されており、バッチョ・バンディネッリやオーギュスト・ロダンといった名だたる彫刻家の手による作品が含まれています。また、1,200点を超える装飾美術品は、家具や陶磁器など、当時の生活や文化をうかがい知ることができる貴重な資料です。

デッサンと版画のコレクションは、合わせて6万点を超える膨大な数で、フランスの美術館の中でも有数の規模を誇ります。特にフランス画家によるパステル画のコレクションは質量ともに充実しており、パリのルーヴル美術館に次ぐ国内第二位の規模とされ、当館の特筆すべき財産となっています。

日本での紹介

オルレアン美術館のコレクションは、過去に日本でも紹介される機会がありました。1990年には「オルレアン美術館所蔵フランス素描・水彩名作展 16世紀から20世紀まで」が、1999年には「オルレアン美術館展: ロココからエコール・ド・パリまで」が開催され、日本の美術愛好家に向けて、当館の誇るフランス美術の粋が披露されました。

オルレアン美術館は、その多様で質の高いコレクションを通じて、ルネサンスから現代に至るヨーロッパ美術の変遷を概観できる、フランスでも重要な美術館の一つです。特にパステル画やデッサン、北方絵画などに見られる深みは、専門家のみならず一般の来館者にとっても多くの発見と感動をもたらしてくれるでしょう。

もう一度検索