オヴィッド・ミュザン

オヴィッド・ミュザンについて

オヴィッド・ミュザン（Ovide Musin）は、1854年9月22日にベルギーのリエージュ近郊、ナンドゥランに生まれました。1929年10月30日に75歳で没するまで、ヴァイオリニスト、作曲家、そして教育者として、19世紀後半から20世紀初頭にかけての音楽界で重要な役割を果たしました。彼は特に、名だたるヴァイオリニストを輩出したフランコ＝ベルギー・ヴァイオリン楽派を代表する人物の一人として知られています。

音楽の道へ

ミュザンの音楽との出会いは、6歳の時に父から贈られた子ども用のヴァイオリンでした。彼は村のコントラバス奏者から最初の簡単な手ほどきを受けると、聴いた旋律をすぐに真似て弾くという才能を見せ始めました。この並外れた才能に気づいたリエージュのヴァイオリニストの助言により、彼は本格的な音楽教育を受けることになります。1863年10月、彼は多くの名手を育てたデジレ・ヘインベルグに師事するため、リエージュ王立音楽院の入学試験を受けました。音楽院での専門教育と並行して、彼は一般教育のため通常の学校にも通い、幅広い知識を身につけました。

音楽院では目覚ましい進歩を遂げ、1867年にはウジェーヌ・イザイと共に2等賞を獲得しました。1869年には1等賞、そして1870年には演奏の金メダルを受賞するなど、その実力は高く評価されました。音楽院時代の同期には、後に名声を得るイザイのほか、セザール・トムソン、マルタン・マルシックといった俊英がおり、彼らはイザイの父ニコラが組織したグループでの合奏を通してオーケストラ経験を積みました。

さらなる研鑽と国際的な活躍の始まり

1870年に普仏戦争が勃発すると、フランスからベルギーに避難していたヴァイオリニスト、ユベール・レオナールがリエージュ王立音楽院で上級クラスを開講しました。ミュザンはこの機会にレオナールに師事し、その指導を受けました。音楽院での最終学年時には、オーステンデでジャン＝バティスト・サンジュレーが率いるKursaal管弦楽団のコンサートマスターに就任し、週に多数のコンサートと室内楽公演をこなす多忙な日々を送りました。ここで彼は、著名なヴァイオリニスト、ヘンリク・ヴィエニャフスキとの出会いを経験しています。

1872年、ミュザンはレオナールを追ってパリに移り、さらに研鑽を積みました。当時の収入はソリストとしての演奏会や弦楽四重奏団での活動に頼っていましたが、レオナールの導きによりパリの社交界へと紹介されます。そこで彼は、セザール・フランク（同郷でもあった）、サン＝サーンス、フォーレ、プーニョといった著名な音楽家たちと交流を深めました。また、ジュール・ヴェルヌ、エミール・ゾラ、ギ・ド・モーパッサンといった作家をはじめとする各界の著名人とも面識を得ました。こうした広範な人脈は、彼の国際的なキャリア形成において大きな助けとなりました。特にサン＝サーンスは、後にヴァイオリン協奏曲第4番となる可能性があったとされる『演奏会用小品 ト長調』 Op.62をミュザンに献呈しています。

世界を巡る演奏活動と教育者として

ミュザンはソリストとして、ヨーロッパ各地はもとより、南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドといった遠隔地を含む、世界の主要なコンサートホールで演奏会を行いました。さらに、中国や日本の主要都市でもその演奏を披露するなど、まさにグローバルな活動を展開しました。最初のアメリカツアー中には、後に妻となるソプラノ歌手のアンナ・ルイーズ・タンナーと出会いました。彼女は最高裁判事の娘であり、二人は1891年10月7日にブルックリンで結婚し、その後は夫婦で多くの演奏旅行を共にしました。

母親の老いを案じてベルギーに帰郷したミュザンは、ブリュッセル王立音楽院でセザール・トムソンが担当していたクラスを引き継ぎ、教育者としての活動も始めました。1909年に母親が亡くなると、彼はニューヨークに戻り、前年に自身が設立したOvide Musin's Belgian School of Violinを指揮しました。

著作活動と晩年

ミュザンは世界を旅した経験や、その中で出会った人々、出来事を詳細に旅行記として書き留めました。これらの記録は「Un Violoniste aux Antipodes」というタイトルで出版されています。さらに、彼は自身の生涯と音楽的な軌跡をまとめた4巻にわたる自伝も執筆し、1920年にニューヨークのミュザン出版社から「My Memories: A half-century of adventures and experiences and globe travel written by himself」として刊行しました。

多忙な演奏活動と教育活動の傍ら、ミュザンは作曲も手掛け、多くの作品を残しています。代表的なものには、『Ma Belle Amie』、『演奏会用マズルカ』、『演奏会用カプリース Op.6』、『演奏会用ワルツ Op.7』などがあり、これらは主にヴァイオリンのための作品です。また、自身の教授法をまとめた『ヴァイオリンのベルギー楽派』第4巻のような教育的な著作も出版しています。

オヴィッド・ミュザンは、その生涯の多くをヴァイオリン音楽の普及と発展に捧げ、数多くの演奏会と教育活動を通じて後進の指導にも力を尽くしました。彼はブルックリンで75歳の生涯を閉じました。

もう一度検索