オーギュスト・ペレによって再建された都市ル・アーヴル

ル・アーヴル：戦後復興の奇跡とオーギュスト・ペレの都市デザイン

フランス北部の港湾都市ル・アーヴル。その中心街は、第二次世界大戦の激戦と、それに続く驚くべき復興の歴史を刻んでいます。ユネスコ世界遺産に登録されている「オーギュスト・ペレによって再建された都市ル・アーヴル」は、20世紀の都市計画における金字塔として、世界中から注目を集めています。

戦火の爪痕と、ゼロからの創造

第二次世界大戦中、ル・アーヴルは戦略的な港湾都市として、激戦の舞台となりました。ドイツ軍の占領、そして連合軍による激しい爆撃は、街を廃墟に変えました。5000人以上の死者、1万2500戸以上の家屋の破壊、8万人にのぼる家を失った人々…その壊滅的な被害は、ヨーロッパの都市の中でも最悪レベルでした。

戦後、街の復興は喫緊の課題でした。1945年、都市再建省は、ル・アーヴル中心市街の再建を建築家オーギュスト・ペレの工房に委託します。ペレは、過去の遺産を完全に清算し、近代的な都市をゼロから創造するという大胆な構想を打ち出しました。その手法は、コンクリートを主な建築資材とする、機能的で合理的な都市設計でした。

幾何学模様：機能美を追求した都市計画

ペレの都市計画は、直交を基本とした碁盤目状の街区配置を特徴としています。これは古代都市の都市計画にも見られる手法ですが、ル・アーヴルでは、戦災によって更地となった中心部に、この計画が徹底的に適用されました。

しかし、この厳格な幾何学模様には例外もあります。戦火を免れた歴史的建造物や、地形上の制約によって、碁盤目状の配置が完全に貫徹されたわけではありません。特に、市街地の南東部にあるサン＝フランソワ地区は、中世以来の街路がそのまま残されています。

ペレは、街路の幅をコンクリートの梁の長さに最適化し、6.24mを基本単位とする計画を採用しました。この合理的で機能的な都市計画は、風通しの良い直線的な街路と、整然と並んだ住宅ファサードを作り上げました。現在の中心街では、ストラスブール大通り、フォシュ通り、パリ通りといった主要幹線道路が、この碁盤目状の街区を貫いています。

均質化された住居：快適さと機能性を追求

ペレは、住居のデザインにも独自の理念を貫きました。均質化された住居は、古典様式を踏襲しつつ、現代的な機能性を追求した設計です。各階には明確な機能が割り当てられ、ブティックや住宅、バルコニー、そして最上階には奥まった空間が設けられました。

内装は、円柱や浅浮き彫り、エジプト式の柱頭など、古典的な装飾が施されながらも、大きな窓から自然光がたっぷり差し込む明るい空間となっています。セントラルヒーティング、はめ込み戸棚、ダストシュート、ガレージ、エレベーターなど、当時の最先端技術も取り入れられました。断熱や防音にも配慮され、屋根にはテラスが設けられるなど、快適な居住空間の創造を目指しました。

ペレの遺産：主要な建築物とモニュメント

ル・アーヴル中心街には、ペレ工房の建築物が数多く残されています。

サン＝ジョゼフ教会: ペレ最後の作品であり、戦災犠牲者の慰霊碑としての役割も担う、荘厳な教会です。
サン＝ミシェル教会: 開かれた聖書を思わせる屋根が特徴的な教会。
市庁舎: ペレとトゥルナンによる作品。19階建ての高層建築です。
カジノ: 1957年建設の商業会議所を改築したものです。
ラウル＝デュフィ中学校: モニュメンタルなデザインが特徴です。
プランタン百貨店: 曲線的なデザインとガラス張りが特徴です。
商業学校: 格子状のガラス張りが印象的です。
アンドレ・マルロー美術館: 戦後再建されたフランス最初の美術館です。
図書館: 2つの垂直な建物から成る、ユニークなデザインです。
フォシュ通り: ヨーロッパ最大級のアベニュー。
オケアノス門: 双子の塔が印象的な門です。
パリ通り: ペレがその類型学を研究した通りです。

これらの建築物は、ペレの都市計画理念を具体的に示す、貴重な遺産となっています。

世界遺産登録と、その後の発展

ル・アーヴルの世界遺産登録は、スムーズなものではありませんでした。ペレの建築は賛否両論があり、現代建築の世界遺産登録は珍しいことでした。しかし、20世紀の都市計画の優れた例証として、その価値が認められ、2005年に世界遺産に登録されました。

登録を機に、ル・アーヴル市は観光客誘致に力を入れています。海水浴場やカジノの新設など、観光産業の活性化が進められています。ペレの建築物も、当時の色使いや材質を維持するなど、その歴史的価値を保存する取り組みが続けられています。

ル・アーヴルは、戦後復興の奇跡と、オーギュスト・ペレの革新的な都市デザインによって、現代都市のあり方を示す重要なモデルとなっています。その歴史と建築は、これからも世界中の人々を魅了し続けるでしょう。

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