オークラウロ

オークラウロ：幻の楽器、その歴史と再生

オークラウロは、昭和初期に大倉喜七郎によって考案された、金属製の多孔尺八です。日本の伝統楽器である尺八に、西洋のモダン・フルートのキーメカニズムを取り入れた、革新的な楽器として誕生しました。

誕生の背景

大倉喜七郎は、大倉財閥の二代目として、文化・スポーツ界の支援に尽力した人物です。特に尺八の演奏を得意としており、その音域を広げ、西洋音楽の十二音律に対応できる楽器を開発したいという強い思いを持っていました。その結果、誕生したのがオークラウロです。

1922年（大正12年）には「大倉式尺八」として披露会が行われ、試行錯誤を経て1935年（昭和10年）に「オークラウロ」と命名され、世に発表されました。名称は、創始者のOKURAと、古代ギリシアの楽器「アウロス」を組み合わせたものです。アウロスは伝説上の楽器ですが、縦笛としての理想が込められていたと考えられます。

オークラウロの特徴

オークラウロは、ソプラノ管の他に、ピッコロ、ソプラニーノ、アルト、バッソの5種類が制作されました。楽器としての性能は良好であったと評価されています。しかし、オークラウロ奏者の育成や楽曲制作が十分に進まないまま、第二次世界大戦後の財閥解体により大倉家の支援が失われたことで、楽器製作のコストや教授者の不足、さらに日本における音楽の欧米化など、様々な要因が重なり、次第に廃れていきました。

しかし、その存在は一部で語り継がれ、「幻の楽器」と呼ばれるようになりました。

オークラウロの沿革

大倉喜七郎は、1923年（大正12年）に「楽器としての尺八改良意見」を雑誌に発表し、同年に「大倉式尺八」の披露会を開催しました。現存する「わかまつ」銘の真鍮製「大倉式尺八」は、フルートのようなキーシステムを備えています。しかし、音高が不安定だったため、その後、ロンドンのフルートメーカーに試作を依頼しました。

喜七郎自らも工房に赴き、管の太さやキーの配置を調整するなど、尺八独特の奏法や音色を取り入れるための工夫を重ねました。こうして、ソプラノ管の他、ピッコロ、ソプラニーノ、アルト、バッソが作られました。これらの楽器は、プロの演奏家（師範）が使用するために作られたものでしたが、一般普及用としては、二ッカン（日本管楽器株式会社）でソプラノ管が販売されました。

また、オークラウロの改良には、音響学者の平林勇や、作曲家の平尾貴四男も深く関わりました。平尾の「フルート為のソナチネ」は、元々オークラウロのために作曲されたものです。

京橋には大倉音楽研究所があり、その中にオークラウロ協会が設けられ、教則本も刊行されました。養成所では演奏者の募集も行われ、定期演奏会も開催されました。しかし、楽団が西洋クラシック音楽の演奏に傾倒したため、フルートとの比較を招き、オークラウロ独自の音色を追求するという喜七郎の夢は、半ばで終わることとなりました。

オークラウロの再生

戦後、長らく忘れられていたオークラウロですが、2011年に大倉集古館で展覧会が開催されたことをきっかけに、再び注目を集めるようになりました。この展覧会では、オークラウロを使用したコンサートも行われ、その後、同館を中心に、講演会やコンサートなどの再生プロジェクトが始まりました。

2012年には、小湊昭尚によるオークラウロ演奏のオリジナルアルバムが発売されるなど、普及に向けた活動が続けられています。近年では、尺八とフルートの両方の機能を併せ持つハイブリッドな縦笛として再評価され、コンサートなど様々な場面で演奏される機会が増えています。

2012年からは新しいオークラウロの再製作も行われ、2014年には楽器の販売も開始されました。2015年には、3種類のオークラウロの合奏を収めたアルバムも発売され、楽器博物館での特別展も開催されました。

まとめ

オークラウロは、その斬新な構造と独特の音色で、日本の音楽史に大きな足跡を残しました。一時姿を消しましたが、近年その魅力が再発見され、再び現代の音楽シーンで存在感を示し始めています。この「幻の楽器」の復活は、日本の音楽文化に新たな可能性をもたらすものとして、今後の展開が期待されます。

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