大倉喜七郎

大倉喜七郎：多才な「バロン・オークラ」の生涯

大倉喜七郎（おおくら きしちろう）は、1882年（明治15年）に東京で生まれ、1963年（昭和38年）に80歳で没した、大倉財閥の二代目総帥であり、男爵の爵位を持つ人物です。父は財閥の創始者である大倉喜八郎であり、異母弟には、父と兄の評伝を執筆した大倉雄二がいます。喜七郎は、長唄の名として「聴松」を名乗っていました。

実業家としての功績

喜七郎は、父の事業を引き継ぎ、大倉財閥の発展に尽力しました。戦後の公職追放や財閥解体といった困難な状況にも直面しましたが、ホテルオークラ、川奈ホテル、赤倉観光ホテルなど、日本のホテル業に大きな足跡を残しました。その気さくで気前の良い性格から、「バロン・オークラ」として親しまれました。

文化事業への貢献

喜七郎は、大倉集古館の理事長を長年務めるなど、文化事業にも積極的に貢献しました。囲碁、音楽、舞踊、ゴルフ、カーレースなど、多岐にわたる分野で才能を発揮し、日本屈指の趣味人としても知られていました。

若き日の学びと自動車への情熱

慶應義塾幼稚舎、慶應義塾普通部を経て慶應義塾大学を卒業後、1900年にイギリスのケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに留学しました。留学中に自動車の操縦技術だけでなく、修理技術も習得。1907年には、サリーのブルックランズ・サーキットで開催されたカーレースで、イタリア製フィアット120馬力レーシングカーを操縦し、平均時速80マイル以上を記録して2位入賞を果たしました。同年、お土産として5台の自動車とともに帰国し、日本初の自動車専門輸入会社である日本自動車を設立しました。その後も自動車愛好家として知られ、オーナードライバー団体「日本自動車倶楽部」を設立し、自動車関連制度の策定にも協力しました。また、皇室御料車の選定や買い付けも担当しました。

ホテル経営とリゾート開発

1922年には、父親に代わって帝国ホテル会長に就任しました。また、1927年には、父が設立した大倉高等商業学校（現在の東京経済大学）の協議員に就任し、終戦の翌々年まで20年間務めました。1931年には、私財を投じて大倉山ジャンプ競技場を建設。この競技場は、1972年の札幌オリンピック90m級ジャンプの会場として使用されました。

喜七郎は、日本のリゾート開発にも貢献しました。1933年には、北アルプスへの登山をきっかけに、長野県上高地に上高地帝国ホテルを開業し、日本の山岳リゾートの先駆けとなりました。また、燕岳への登山をきっかけに、標高約2,700mの場所に山小屋（現在の燕山荘）の建設を支援し、戦争直後まで帝国ホテルの傘下に収めました。

美術、音楽、邦楽への支援

1930年2月には、横山大観をはじめとする日本画家たちを支援し、イタリア・ローマで「日本美術展覧会」を開催し、近代日本絵画を海外に紹介しました。出品作品はすべて喜七郎が買い上げ、大戦後に残った作品は、大倉集古館に寄贈されました。音楽分野では、1922年に帝国ホテルを本拠とするオーケストラ「東京シンフォニー管弦楽団」を結成し、邦人作曲家による作曲オーディションへの出資や、オペラ歌手・藤原義江の支援、バレエ団「川奈楽劇団」の結成など、西洋音楽や舞踊の普及活動に尽力しました。また、1933年には、三味線音楽に西洋音楽の要素を取り入れた新邦楽「大和楽（やまとがく）」を創設し、1935年には、尺八にフルートのキーシステムを取り入れた新楽器「オークラウロ」を考案・製作するなど、邦楽界にも足跡を残しました。

その他の活動

喜七郎は、囲碁界にも貢献しました。1924年の日本棋院設立時には経済面で多大な援助を行い、1946年まで日本棋院副総裁を務め、後に名誉総裁となりました。その功績を称え、囲碁の普及・発展に貢献した人物に贈られる「大倉喜七郎賞」が創設されました。また、2006年には、日本棋院囲碁殿堂入りを果たしています。1937年に創立された日伊学会では会長を務め、日伊協会会長も長年務めるなど、国際交流にも尽力しました。1941年には日本ホテル協会会長に就任。1945年10月には貴族院男爵議員に当選し、1946年まで在任しました。しかし、同年、公職追放となり、1951年に解除されました。

晩年と死

喜七郎は、1963年2月2日に80歳でその生涯を閉じました。彼の残した功績は、今もなお、様々な分野でその影響を見ることができます。

栄典

1928年（昭和3年）11月10日 - 勲三等瑞宝章
1944年（昭和19年）6月23日 - 満州国：勲二位景雲章



喜七郎は、多岐にわたる分野でその才能を発揮し、日本の文化・経済の発展に大きく貢献した人物でした。その多彩な活動ぶりは、まさに「バロン・オークラ」の名にふさわしいものでした。

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