オートチューン

オートチューンとは

オートチューンは、アメリカのアンタレス・オーディオ・テクノロジーズ社が開発した、楽器やボーカルの音程を補正するソフトウェアです。音楽制作の現場で広く利用されており、音程が不安定な歌声や楽器の音をデジタル処理によって修正することができます。また、極端な設定をすることで「ケロケロボイス」のような独特なエフェクトを作り出すことも可能です。このため、音程補正ツールとしてだけでなく、エフェクターとしても注目されています。

オートチューンの概要

オートチューンは、音楽制作ソフトウェアのプラグインとして動作し、音声のピッチ（音高）をリアルタイムで修正します。音程がずれた歌声でも、一音ずつ正確な音程に修正することで、滑らかで正確な歌声に作り変えることができます。この能力から「禁断のプラグイン」と呼ばれることもあります。また、音程を極端に変化させることで、ロボットのような独特のサウンドを作り出すことも可能です。

オートチューンは、ヴォコーダーやトーキング・モジュレーターといった他のエフェクターと似た効果を生み出すことがありますが、これらのエフェクターとは異なる原理で動作しています。オートチューンは、特に2000年代以降の音楽シーンにおいて、エフェクターとしての側面が強調されるようになり、数多くの楽曲で使用されています。

オートチューンの歴史

オートチューンは、1996年に石油会社のエクソンモービルで働いていたエンジニア、アンディ・ヒルデブランドが、地震データ解析用ソフトが音程補正にも使えることを発見したことから始まりました。翌1997年に、アンタレス社はこの技術を製品化し、「オートチューン」として発売しました。

1998年には、シェールの楽曲「Believe」において、音程補正ではなくロボットボイスを作り出すエフェクターとして使用され、この楽曲のヒットによってオートチューンは一躍有名になりました。2000年には、ダフトパンクの「ワン・モア・タイム」で使用され、エレクトロニックミュージック界隈で広く利用されるようになりました。この頃から、オートチューンを用いた楽曲はフィルターハウスというジャンルとして認識されるようになります。

2005年には、T-ペインが自身の楽曲でオートチューンを多用し、大きな注目を集めました。これをきっかけに、ヒップホップやレゲエなど様々なジャンルでオートチューンが使用されるようになり、カニエ・ウェスト、リル・ウェイン、エイコンなどのアーティストがオートチューンを取り入れた楽曲を発表しました。日本では、2007年にPerfumeが「ポリリズム」でオートチューンを使用し、大きな話題となりました。

その後も、オートチューンは様々なジャンルで利用され続け、2008年にはグレゴリー・ブラザーズがニュース映像にオートチューンをかけた「Auto-Tune The News」を制作したり、メタルコアバンドのアタック・アタック!がオートチューンを使用した楽曲を発表するなど、幅広い音楽ジャンルで使用されるようになりました。

オートチューンの使用例

オートチューンは、ボーカルの音程を補正するだけでなく、独特のエフェクトを作り出すためにも使用されます。また、合成音声の歌声をより自然に聞こえさせる目的で使われることもあります。

オートチューンへの批判

オートチューンは、簡単に音程を補正できるため、音楽の均質化を招くという批判もあります。また、生の歌声のニュアンスを損ね、機械的な印象を与えるという意見も存在します。音楽家の菊地成孔は、音程補正の流行を批判し、「現代における『音痴』は、生声で音程をちゃんと取れないことではなく、音程修正を施していることがわかってしまうこと」だと述べています。

また、ロレッタ・リン、ガース・ブルックス、ニンジャマン、般若など、オートチューンの使用に否定的なミュージシャンもいます。ロックバンドのデス・キャブ・フォー・キューティーは、グラミー賞授賞式でオートチューン使用に抗議するスピーチを行い、ジェイ・Zは「オートチューンの死」を意味する楽曲を発表するなど、アンチ・オートチューンの姿勢を明確にしているミュージシャンも存在します。