オープナー (野球)

オープナー (Opener)

オープナーとは、プロ野球において見られる特殊な投手起用方法です。

一般的に、野球では先発投手が試合の多くのイニングを投げることが期待されます。しかし、オープナー戦術ではこの常識とは異なり、主にリリーフ投手、特に試合終盤を任されるような好投手をあえて試合の開始からマウンドに送ります。

このオープナーは、1イニングまたは2イニングといった短い回数を全力で投げ、相手チームの強力な上位打線や中軸打線との対戦を任されます。オープナーが役割を終えた後、本来であれば先発を務めるような別の投手がロングリリーフとして登板し、試合の大部分を投げ継ぐ形となります。

導入の背景と目的

この戦術が採用される主な理由としては、以下のような点が挙げられます。

先発投手の保護: 立ち上がりが不安定な傾向のある本来の先発投手を、初回から強力な打線と対戦させるのではなく、より打力の落ちる下位打線から始まるなど、比較的楽な場面で登板させることができます。
リリーフ陣の活用: 優れたリリーフ投手が豊富にいる場合に、その力を最大限に活かすことができます。
先発ローテーションの補強: 先発投手陣の層が薄いチームにおいて、先発の頭数を補うために用いられることがあります。
戦術的な優位: 試合の最も得点が入る可能性が高いとされる初回に、最も得意な球種や全力の投球ができるリリーフ投手をぶつけることで、強力な打線を封じ込めることを狙います。打者は対戦を重ねるごとに投球に慣れるため、本来の先発投手が上位打線と複数回対戦する機会を減らすことで、被打率を抑制する効果も期待できます。
財務的な利点: 比較的高年俸になりがちな先発投手ではなく、リリーフ投手を効果的に活用することで、人件費を抑える可能性も指摘されています。

歴史的経緯

野球の歴史において、試合開始直後に投手を交代させる例は過去にも見られました。例えば、相手打線の傾向に合わせて意図的に左投手または右投手を短時間投げさせる戦術的な起用は、古くから存在しています。

1993年には、先発陣が手薄だったオークランド・アスレチックスが、従来のローテーションに代わる継投策を試みました。これは短期間で終わりましたが、後にオープナーの先駆けと評価されることもあります。

21世紀に入ると、データ分析の進展により、「打者が対戦を重ねるほど先発投手の成績が悪化する」という考え方が広まりました。これを受けて、投手の投球回数を制限する提案や、本職の先発投手の前に別の投手を起用するアイデアが登場しました。ブライアン・ケニーは2016年の著書で、初回失点率の高さに着目し、リリーフ投手を最初のイニングに使う有効性を示唆しています。

MLBでの本格導入と広がり

オープナー戦術を初めて本格的に採用したのは、MLBのタンパベイ・レイズです。2018年5月19日の試合で、クローザーのセルジオ・ロモがオープナーとして起用されたのがその始まりとされています。

レイズはこの戦術を継続的に用い、特に先発投手に頼り切らない継投野球を展開しました。その結果、チーム防御率の改善が見られ、開幕前の予想を覆す好成績を残しました。この成功を受け、ロサンゼルス・ドジャース、ミネソタ・ツインズ、オークランド・アスレチックス、テキサス・レンジャーズなど、他のMLB球団もオープナーを取り入れるようになりました。プレーオフの舞台でも採用されるなど、現代野球における有効な戦術の一つとして認識されるようになります。

2019年以降、ニューヨーク・ヤンキースなど、さらに多くのチームがオープナーを導入しました。同年7月には、ロサンゼルス・エンゼルスがオープナーによる継投でのノーヒットノーランを達成するという歴史的な出来事も起こりました。

日本プロ野球での採用

日本プロ野球において、オープナー戦術が初めて試みられたのは、2019年4月21日、横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督によるものでした（結果的に試合には敗戦）。

日本プロ野球はMLBに比べて、試合数が少ない、長期間の連戦が少ない、延長回数が限られている（12回まで）、出場選手登録枠が多い（先発候補が多い）といった違いがあるため、オープナーの導入には慎重な見方が強いとされています。

こうした背景から、日本ではオープナーに近い「ショートスターター」という戦術が採用されることがあります。ショートスターターは、リリーフ投手が務めるオープナーに対し、本来先発を務める投手が数イニングだけを投げ、後続に繋ぐものです。北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が2019年4月にこの戦術を導入しましたが、当初は成果が出ませんでした。

しかし、2019年5月1日、日本ハムが中継ぎ投手である堀瑞輝をオープナーとして起用した試合で勝利を収め、これが日本プロ野球におけるオープナー成功の最初の事例となりました。その後も日本ハムはオープナーやショートスターターを試行し続け、新庄剛志監督の下でも採用されています。

ブルペンデーとの違い

オープナーと似た継投戦術に「ブルペンデー」があります。ブルペンデーは、先発投手を一切起用せず、全てのイニングを複数のリリーフ投手が細かく繋いでいく戦術です。こちらは先発投手がいないため、オープナーのように「立ち上がりの不安定な先発を避ける」という目的とは異なり、リリーフ陣の層の厚さを活かす、または先発投手の不足を補うために採用されることが多いです。