オーボエソナタ (サン＝サーンス)

オーボエソナタ ニ長調 作品166

カミーユ・サン＝サーンスが作曲した、オーボエとピアノのためのソナタです。作品番号は166、ニ長調。

作品の背景と位置づけ

このソナタは、サン＝サーンスが亡くなった1921年に書かれた円熟期の作品群の一つです。作曲家は当時、必ずしもレパートリーが豊富ではなかった管楽器のために、新たな作品を提供したいと考えていました。この計画に基づき、彼はオーボエソナタのほか、クラリネットソナタ 作品167、バスーンソナタ 作品168を作曲・完成させています。残念ながら計画された全ての楽器のためのソナタが完成する前にサン＝サーンスは世を去りましたが、これら3曲は彼の創作活動の掉尾を飾る作品として「白鳥の歌」と称されることがあります。

これらのソナタは、作曲者が各楽器の特性を深く理解していたことを示しており、澄み切った清澄な響きと、無駄のない簡潔な表現が際立っています。いずれも各楽器の奏者にとって重要なレパートリーとして定着しています。

作品の完成にあたっては、サン＝サーンスは親交のあった演奏家たちの助言を得ていました。このオーボエソナタは、当時パリ音楽院管弦楽団の首席オーボエ奏者であったルイ・バ（Louis Bas）氏に献呈されており、彼の楽器に対する知識や演奏経験が作品に反映されていると考えられています。

楽曲構成

全3楽章で構成され、全体を通しての演奏時間は11分程度です。古典的なソナタで一般的な「速い-遅い-速い」という楽章配置ではなく、指示されたテンポは第1楽章から第3楽章にかけて順に速くなるように並んでいます。

1. 第1楽章 アンダンティーノ (Andantino)
ニ長調、3/4拍子。穏やかな歩みを示すテンポで書かれた楽章です。形式は三部形式。開始主題は、ロンドンのウェストミンスター寺院の時計台のチャイム「ウェストミンスターの鐘」と類似した音形を用いており、静かで瞑想的な雰囲気を醸し出します。中間部は変ホ長調に転調し、抑制された感情の中に高揚感を見せますが、全体としては落ち着いた雰囲気が保たれています。

2. 第2楽章 アレグレット (Allegretto)
変ロ長調、9/8拍子。前の楽章よりやや速いテンポで、軽やかさを持った楽章です。この楽章の冒頭と結びには、「自由に（ad libitum）」演奏するように指示されたカデンツァ風のパッセージが置かれており、オーボエ奏者の表現力が求められます。主部ではジーグのリズムを思わせる躍動的な主題が中心となり、移り変わる色彩豊かな和声が楽曲に多様な表情を与えています。

3. 第3楽章 モルト・アレグロ (Molto Allegro)
ニ短調からニ長調へ、2/4拍子。非常に速く、活発なテンポが指定されています。形式はロンド。三連符と16分音符が頻繁に交錯する、トッカータのような性格も持つ楽章です。数多くの速いパッセージが含まれており、オーボエ奏者には高度な技巧とスタミナが要求されます。最終的にはニ長調で華やかに締めくくられます。

このソナタは、サン＝サーンス晩年の円熟した作曲技法と、楽器への深い愛情を示す作品として、現在でも広く演奏され続けています。

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