パリ音楽院管弦楽団

パリ音楽院管弦楽団：フランス音楽史を彩った名門オーケストラ

パリ音楽院管弦楽団（Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire）は、1828年にパリで設立されたオーケストラです。パリ音楽院の楽友協会によって運営され、音楽院の教授や卒業生がメンバーとして参加していました。19世紀から20世紀前半にかけて、フランス楽壇において中心的な役割を果たし、その存在は非常に大きなものでした。

このオーケストラは、特にベートーヴェンの作品を積極的に取り上げたことで知られています。初代首席指揮者フランソワ＝アントワーヌ・アブネックは、ベートーヴェンをレパートリーの中心に据え、設立からわずか数年のうちに全ての交響曲を演奏しました。アブネックの指揮のもと、ベートーヴェンは「前衛音楽」からフランスの聴衆に広く受け入れられる存在へと変化していきました。彼の在任20年間で、ベートーヴェンの作品は191回の演奏会のうち183回も取り上げられ、その影響力の大きさがうかがえます。また、ハイドンやモーツァルトといったウィーン古典派の交響曲も演奏されるなど、限られたレパートリーを高水準で演奏するという方針が確立されていました。

当時の音楽家たちも、パリ音楽院管弦楽団の演奏会に強い関心を寄せていました。ショパンやベルリオーズも頻繁に足を運び、特にベルリオーズはベートーヴェンの連続演奏から大きな影響を受け、交響曲『幻想交響曲』を作曲するに至っています。さらに、ワーグナーもアブネックの指揮によるベートーヴェンの《交響曲 第9番》を聴き、ベートーヴェンへの畏敬の念を深めたとされています。

しかし、1967年にパリ音楽院管弦楽団は解散し、現在のパリ管弦楽団へと改組されました。この際、団員の2/3が去り、オーケストラの音楽性もアンサンブルを重視した近代的なものへと大きく変化しました。そのため、かつてのパリ音楽院管弦楽団は、アメリカのNBC交響楽団などと並び、「今は存在しない名オーケストラ」の代表として語られることが多くなっています。

歴代首席指揮者

フランソワ＝アントワーヌ・アブネック 1828年～1848年
ナルシス・ジラール 1849年～1859年
テオフィル・ティルマン 1860年～1863年
フランソワ・ジョルジュ＝アンル 1863年～1872年
エドゥアール・デルデヴェス 1872年～1885年
ジュール・ガルサン 1885年～1892年
ポール・タファネル 1892年～1901年
ジョルジュ・マルティ 1901年～1908年
アンドレ・メサジェ 1908年～1919年
フィリップ・ゴーベール 1919年～1938年
シャルル・ミュンシュ 1938年～1946年
アンドレ・クリュイタンス 1946年～1960年

1960年から1967年までは首席指揮者が空席でしたが、実質的にはクリュイタンスが指揮を務め、1964年には最初で最後の日本公演も行われました。この時の演奏は非常に高く評価され、「日本のオーケストラがこのレベルに達するのは永遠に不可能ではないか」とまで言われたそうです。1967年の解散は、クリュイタンスの死去もきっかけの一つとなっています。

関連事項

パリ管弦楽団
アンドレ・マルロー
シャルル・ラムルー（エドゥアール・デルデヴェスの元で副指揮者を務め、後にコンセール・ラムルーを創設）

参考資料

Online archive of primary sources on the orchestra's history
D. Kern Holoman's definitive study The Société des Concerts du Conservatoire 1828-1967 (University of California Press, 2004).
今谷和徳・井上さつき『フランス音楽史』音楽之友社、2010年

もう一度検索