オーランド・ギボンズ

オーランド・ギボンズ (Orlando Gibbons)

オーランド・ギボンズ（1583年12月25日受洗 - 1625年6月5日）は、イングランドのテューダー朝末期からジャコビアン時代にかけて活動した、重要な作曲家でありオルガニストです。当時のイギリス音楽界において、最も多才な人物の一人と称えられています。

生涯

ギボンズはオックスフォードに生まれました。音楽教育は早くから始まり、1596年から1598年にかけて、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジの聖歌隊に籍を置きました。このカレッジでは、現在も彼の命日に追悼の礼拝がチャペルで行われています。学業を続け、1606年には学士号を取得しました。その後、ジェームズ1世により王家礼拝堂のジェントルマンに任命され、さらに少なくとも1615年からは、亡くなるまで同礼拝堂のオルガニストとして奉職しました。晩年、カンタベリー滞在中に卒中により急逝。その功績を記念する碑がカンタベリー大聖堂内に建立されています。

音楽的業績

ギボンズの音楽作品は、当時のイングランド音楽の多様性と質の高さを体現しており、その才能は多岐にわたるジャンルで発揮されました。彼は膨大な数の鍵盤楽曲、約30曲に及ぶヴィオール合奏のための幻想曲、そして数多くのマドリガルを手がけました。マドリガルの中でも、『白銀の白鳥』(The Silver Swan)は特に有名で、現在でも頻繁に演奏されています。

教会音楽の分野においても、ギボンズは重要な足跡を残しています。彼のコラール音楽は、精緻に練られた対位法と、その天賦の才である美しい旋律とが見事に融合している点を特色とします。特に、ヴァース・アンセムは彼の得意としたジャンルの一つであり、名高い作品を多数残しました。

代表的なヴァース・アンセムとしては、『ヨハネの証はかくのごとし』(This is the record of John) が挙げられます。この曲は、クリスマス前の降臨節の聖句に付曲されたものであり、合唱とソロのカウンターテナーまたはテノールが交代しながら歌い進められる形式をとります。特にソロのパートは、各所で高い演奏技術を要する一方で、楽曲全体として聖句の修辞的な効果を見事に引き出しており、その表現はあくまで自然で、過度に仰々しいものではありません。

また、イングランド国教会の礼拝で用いられる晩課のための音楽も作曲しており、セカンド・サーヴィス（Second Service）とショート・サーヴィス（Short Service）の二種があります。前者はテクスト全体を合唱で扱い発展させたものであり、後者は特に美しく感情豊かな『ヌンク・ディミティス』を含んでいる点が特筆されます。

フル・アンセムの例としては、深い情感を湛えた『おお、主よ、御身の怒りで』(O Lord in thy wrath) や、復活祭前の聖枝祭のために書かれた8声部の作品『手を打ち鳴らせ』(O clap your hands together) などがあります。

評価

ギボンズの音楽は時代を超えて評価されており、20世紀の著名なピアニスト、グレン・グールドはギボンズの音楽を深く敬愛していました。グールドは、あるインタビューの中で、ギボンズをヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、アントン・ヴェーベルンといった他の音楽史上の巨匠たちと並び称して言及しています。

オーランド・ギボンズは、短い生涯ながらも、当時のイングランド音楽に多様かつ質の高い作品群をもたらし、後世に大きな影響を与えた作曲家です。

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