カギヅメピンノ

カギヅメピンノ（Pinnotheres pholadis）

カギヅメピンノは、十脚目に属するカクレガニ科のカニです。この仲間ではオオシロピンノと並び、日本沿岸で比較的よく見られる普通種の一つとして知られています。その和名については、「カギツメピンノ」と表記される文献も存在します。

分布

本種は、日本の東京湾、伊勢湾、長崎県沖に加え、国外ではフィリピンやタイランド湾といった西太平洋の広範囲に分布しています。近年では、2003年に駿河湾からも生息が確認されており、その分布域はさらに拡大している可能性があります。

形態

カギヅメピンノは小型のカニで、体長は約1.3センチメートルと小型です。具体的には、殻長はおよそ13ミリメートル、殻幅はおよそ13.5ミリメートル程度です。その甲殻は丸みを帯びた四角形をしており、特徴として前方へ向かって強く傾斜しています。頭部にある額は下方に突き出ているため、カニを上から見た際には見えません。歩脚には特徴があり、特に第四歩脚は他の歩脚と比較して明らかに小さい構造をしています。また、各歩脚の先端にある指節は短く、鋭い鉤爪（かぎづめ）のような形状を形成しており、これが和名の由来にもなっています。

生態

カギヅメピンノの最も特徴的な生態は、二枚貝の外套腔（がいとうこう）に潜り込んで生活する片利共生です。様々な種類の二枚貝を宿主とすることが知られており、代表的なものとしてバカガイ、シオフキ、アズマニシキ、ヒオウギガイ、イタヤガイ、マガキ、イタボガキ、イガイ、ムラサキイガイなどが挙げられます。また、二枚貝以外の軟体動物であるウミタケに付着している例も確認されています。

特定の地域における寄生状況の調査も行われています。例えば、1938年から1939年にかけて現在の福岡県柳川市にあたる柳川町で行われた調査では、この地域に生息するシオフキに対するカギヅメピンノの寄生頻度が非常に高いことが明らかになりました。調査された時期によってばらつきはありますが、2月には調査個体の38パーセント、8月には実に66パーセントものシオフキから本種が発見されています。

生息する水深の範囲も非常に広いことが知られています。潮間帯に生息する二枚貝に共生している個体が見つかるだけでなく、水深およそ300メートルという海底からも発見されています。東京海洋大学の調査船「神鷹丸」が駿河湾の深海底をドレッジ（海底の堆積物を採取する器具）で調査した際には、二枚貝を伴わずにカギヅメピンノの個体だけが単独で採取された例も報告されており、深海での生活様式についても興味深い点が残されています。この広範な生息域と多様な宿主との関係は、本種の生態を理解する上で重要な要素となります。

カギヅメピンノに関する研究は進められていますが、その詳しい生態や宿主との相互作用には未解明な部分も多く、今後のさらなる調査が待たれます。特に、深海における単独での発見は、潮間帯での共生とは異なる何らかの生活様式を示唆している可能性があり、注目されています。

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