カザフスタンの音楽

カザフスタンの音楽：伝統と革新の交響曲

カザフスタンの音楽は、豊かな歴史と文化を反映した多様な音楽ジャンルが存在します。伝統音楽の深遠な響きから、ソ連時代の影響を受けた音楽、そして近年世界的な注目を集めるQ-POPまで、その音楽シーンは実に多様性に満ち溢れています。

伝統音楽：遊牧民の魂の旋律

カザフスタンの伝統音楽は、広大なステップの地で育まれた遊牧民文化と深く結びついています。語り継がれてきた民話は、学問的な研究対象である「民間伝承学」とは異なる側面を持ちます。民間伝承学は、訓練を受けた演奏家による伝統音楽の継承を目的とした学問分野です。

ロシアの影響を受ける以前のカザフスタン音楽は、主に器楽曲と声楽曲に分類されます。器楽曲は「キュイ（Küy）」と呼ばれる、ソリストが伝説を語る形式の演奏が中心でした。歌詞はキュイの中に織り込まれることも多く、音楽と物語が一体となった表現が特徴です。

一方、声楽曲は結婚式や宴会など、祝い事の場で女性たちが披露するものが主流でした。叙事詩的な歌は歴史的事実だけでなく、部族の系譜や恋愛、教訓なども含んだ内容で、複数人が公共の場で即興的に歌い合う「Aitys」という形式も存在しました。Aitysでは、時にユーモラスで自由な表現も見られました。

ロシア・ソビエト連邦時代の影響：東西の融合

ロシア帝国時代とソビエト連邦時代、カザフスタンの音楽は大きな変化を遂げます。ロシアからの影響は大きく2つ挙げられます。1つは、オペラハウスや音楽院などの音楽教育機関の設立です。これにより、西洋音楽がカザフスタンに導入されました。もう1つは、伝統音楽を西洋音楽の理論に基づいて体系化しようという試みです。

ソ連時代、カザフスタンの民謡や伝統音楽は、ロシア民族音楽や西洋音楽と融合し始めました。20世紀以前には、民族学者による収集・研究が行われ、19世紀前半には直線の譜面に書き記されるようになりました。一部の作曲家は、カザフの民謡にロシア風のクラシック音楽を取り入れる試みも行いました。しかし、カザフ人自身による音楽の譜面化は1931年まで待たなければなりませんでした。

ソ連体制下では、カザフの民族音楽は社会主義的なイデオロギーに沿った形で奨励され、「民族音楽」は愛国的、プロフェッショナル、発展的なものとして再定義されました。ロシアの民族学者アレクサンドル・ザタエヴィチは、カザフの民族音楽の要素を取り入れた音楽作品を制作し、伝統楽器もロシア的な演奏スタイルに適応させました。現代的な交響楽団による演奏は、公式の場で民族音楽を披露する主要な方法となりました。

音楽教育機関の発展：伝統の継承と現代への発展

1931年に設立された音楽演劇訓練学校は、カザフスタンにおける音楽高等教育の始まりを告げました。2年後にはカザフ民族楽器交響楽団も設立され、伝統音楽の保存と発展に貢献しました。現在では、アルマトイのクルマンガズィ音楽院やアスタナの国立音楽院が、カザフスタンの音楽教育の中心を担っています。Asyl Mura財団は、伝統音楽の貴重な記録を保管・出版する活動も行っています。

伝統楽器：遊牧民の生活を奏でる音

カザフスタンの伝統楽器の中でも最も有名なのは、弦楽器のドンブラです。2000年以上前から使用されてきたとされる、二弦のリュートに似た楽器です。他にコブズ（馬頭琴に似た楽器）、ジェティゲン（シターンに似た7弦楽器）など、独特の響きを持つ楽器が多く存在します。これらの楽器は、カザフの遊牧民の生活や文化を反映した音色を持っています。

現代音楽：伝統と西洋音楽の融合

近年では、ロシアの影響を受ける以前の伝統音楽を再発見する試みが盛んに行われています。熟練の演奏家による高水準の演奏と、伝統の正確な継承への取り組みが重視されています。若い世代の作曲家たちは、伝統音楽を西洋音楽、特にロックやジャズと融合させる試みも行い、「現代民族クラシック音楽」という新たなジャンルを形成しています。

Q-POP：グローバルな人気を誇るカザフスタンのポップミュージック

Q-POPは、カザフスタン発祥のポップミュージック・サブカルチャーです。ウエスタン・エレクトロポップ、ヒップホップ、ダンスミュージックなどを融合した音楽で、2015年にデビューしたグループNinety Oneがその先駆けとなりました。ティーンエイジャーを主なターゲットとしたQ-POPは、SNSを通じて世界中に広がり、韓国などでも人気を集めています。Ninety Oneを始め、多数のアーティストが活動しており、カザフスタンの音楽シーンを世界に発信しています。Q-popという名称は、インターネットユーザーが「Qazaqstan（カザフスタン）」の頭文字から作ったもので、現在ではカザフスタンのポップミュージック全般を表す言葉として広く使われています。

カザフスタンの音楽は、伝統と革新が融合した、ダイナミックな発展を遂げています。伝統音楽の深みと、現代音楽の斬新な試み、そしてグローバルな人気を誇るQ-POPという3つの要素が、カザフスタンの音楽シーンを彩っています。

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