カシオペヤ座50番星

カシオペヤ座の空に輝く星々の中に、「カシオペヤ座50番星」とカタログ上で特定される天体が存在します。この恒星は「50 Cassiopeia」や略称の「50 Cas」といった名称でも知られており、星図上のカシオペヤ座領域の一角に見られます。

この恒星は、スペクトル分類ではA型主系列星に区分されます。A型星は太陽よりも表面温度が高く、その光は白色に見えます。主系列星とは、恒星がその一生の中で最も安定した期間にあり、中心部で水素の核融合反応を行っている段階の星を指します。地球から観測される見かけの明るさを示す視等級は3.95等と、比較的明るいため、条件が良ければ肉眼での観測も十分に可能です。私たちからカシオペヤ座50番星までの距離は、約157光年と推定されています。光年とは光が1年間に進む距離であり、この数値が示す通り、この星は非常に遠い宇宙空間に位置しています。

天文学的な観測の歴史において、カシオペヤ座50番星は一時、変光星の候補として注目された時期がありました。これは、欧州宇宙機関が打ち上げた位置天文衛星「ヒッパルコス」による高精度な観測データに基づきます。ヒッパルコス衛星は多数の恒星の位置や距離を精密に測定し、同時に明るさの変動も観測しました。そのデータ分析から、カシオペヤ座50番星にごくわずかな明るさの変化が見られる可能性が指摘され、変光星の疑いが持たれたのです。しかし、報告された明るさの変動幅は0.003等級という極めて微細なものであり、これを変光星と確定させるに足る十分な追跡観測も行われていません。このため、カシオペヤ座50番星が本当に明るさを変える変光星であるかについては、現時点では懐疑的な見方が一般的です。

カシオペヤ座50番星には、天文学史における興味深い側面がいくつか見られます。例えば、18世紀のフランスの天文学者ジェローム・ラランドによって設定されたものの、現在では公的な星座として使用されていない「監視者メシエ座（Custos Messium）」という星座がありました。カシオペヤ座50番星は、この「監視者メシエ座」を構成する星の中で最も明るい星として位置づけられていました。また、星雲や星団などが収録されている著名な天体カタログである「ニュージェネラルカタログ（NGC）」においても、発表当初のカシオペヤ座50番星は「NGC 771」という番号で収録されていました。この時の記述は「星雲が疑われる恒星」というものでした。これは、当時の観測技術の限界から、恒星なのか星雲なのか判別が難しかったためと考えられます。しかし、その後のより詳細な観測によって、NGC 771として記録された天体が実際には星雲ではなく、カシオペヤ座50番星という一つの恒星であることが明らかになりました。このため、NGC 771という項目は現在ではカタログ上で欠番扱いとなっています。これは、観測技術の進歩に伴い、過去のカタログ情報が更新される典型例と言えます。

カシオペヤ座50番星は、視等級3.95等の白色A型主系列星であり、地球から約157光年の距離に位置します。かつては変光星候補や星雲と混同された時期もありましたが、現在は単独の恒星として認識されています。歴史的なカタログにその名を残すこの星は、カシオペヤ座の空で静かに輝いています。

もう一度検索