ジェローム・ラランド

ジョゼフ＝ジェローム・ルフランセ・ド・ラランド（Joseph-Jérôme Lefrançais de Lalande, 1732年7月11日 - 1807年4月4日）は、18世紀フランスを代表する天文学者です。

生涯

ラランドは、現在のアン県にあたるブール＝ガン＝ブレスで、地元の郵便局長の息子として生まれました。裕福な家庭環境に育ち、リヨンのイエズス会学校で教育を受けた後、法律を学ぶためにパリに移りました。しかし、パリ滞在中にジョゼフ＝ニコラ・ドリルの天文観測所に魅せられ、ドリールとピエール・シャルル・ルモニエに師事し、天文学の道へと進みました。

法律の教育を終えた頃、ルモニエの勧めで、地球から月までの距離を測定するプロジェクトに参加しました。この観測でラランドは成果を上げ、その功績が認められてベルリンのアカデミー会員に選出されたほか、パリのアカデミーの天文観測者の職を得ました。

1762年、ドリールがコレージュ・ド・フランスの天文学教授を引退すると、ラランドがその後任となり、46年間その職を務めました。教育者としても優れており、ジャン＝バティスト・ジョゼフ・ドランブル、ジュゼッペ・ピアッツィ、ピエール・メシャン、甥のミッシェル・ラランドなど、多くの天文学者を育成しました。

1773年には、論文「彗星と地球の衝突」を発表し、彗星が地球に接近することによって壊滅的な被害が生じる可能性を示唆しました。この論文は大きな混乱を引き起こしましたが、ラランド自身は、その可能性は極めて低いと見積もっていました。

1795年には、パリ天文台の台長に就任しました。また、1795年から1800年までは、フランス経度局の責任者も務めました。1802年には、天文学の功績を讃えるラランド賞を創設しました。

ラランドは1807年4月、パリで息を引き取りました。夕刊を読んでもらっていた際に、突然「もうこれで結構」と言い、その夜に亡くなったと伝えられています。

業績

ラランドが最初に名を上げたのは、1751年の月の観測です。これは、異なる場所から同時に月を観測し、その視差から地球と月との距離を測定するというものでした。ラランドはベルリンで、ニコラ・ルイ・ド・ラカーユは喜望峰で、それぞれ観測を行い、月の視差と恒星の観測に成功しました。

ラランドは惑星の運動理論の研究にも取り組み、1759年にはアレクシス・クレローと共に、ハレー彗星の回帰時期を正確に計算し、惑星位置推算表としてまとめました。この計算結果は、当時としては非常に精度の高いものであり、ラランドの作成した惑星表は、18世紀を通じて広く利用されました。

長年にわたり、家族や学生の協力を得て、恒星の位置を記録するための観測を行い、その数は47,000個にも及びました。その中には、当時未発見だった海王星も含まれていました。

1761年と1769年に起きた金星の日面通過の観測にも携わりました。多くの天文学者が世界各地に遠征する中、ラランドは1761年の日面通過では船酔いを避けるためにパリで観測を行いました。各地の観測結果を集計し、地球から太陽までの距離を算出しました。1769年の日面通過でも、同様に各地へ遠征隊を派遣しデータを収集しました。しかし、自身はパリで観測したものの、天候が悪く、有意なデータを得ることはできませんでした。

ラランドは、長さや重さの単位系をフランス国内で統一すべきだと考え、メートル法制定のための子午線弧長測定事業にも貢献しました。また、フランス天体暦（Connaissance des Temps）の発刊にも尽力しました。

コレージュ・ド・フランスでの講義は、ヨーロッパ中から200人の学生を集めるほど人気が高く、多くの著作を通して天文学を広めた功績は非常に大きいと言えます。

ラランドの名前は、恒星ラランド21185や月のクレーターにその名を残しています。

主な著書

1764年：Astronomie（『天文学』）
1774年：Abrégé d'astronomie（『縮約版天文学』）：初学者向けの天文学概説書
1783年：Éphémérides des mouvemens célestes pour le méridien de Paris, huit années, de 1785 à 1792：ラランドによって改訂された「フラムスティードの星表」の新版を収録
1785年：Astronomie des dames（『婦人のための天文学』）：女性向けの天文学解説書
1801年：Histoire Céleste Française：天の北極より南回帰線までの9等より明るい47,000を超える星を収録した星表
1803年：Bibliographie Astronomique: avec l'Histoire de l`Astronomie dupuis 1781 jusqu'a 1802：1802年までに出版された天文学書の文献目録と天文学史の解説を併録

人物

ラランドは、イエズス会学校の出身でありながら無神論者として知られており、『無神論者録』の編集を行っていました。また、フリーメイソンの「九姉妹ロッジ」の中心人物でもありました。無神論者としての姿勢は、フランス革命後の恐怖政治において政権側に好感をもたれましたが、一方で王党派をかくまったり、有罪判決を受けた聖職者を助けたりする人道的な側面も持ち合わせていました。

ラランドは、虫を好んで食べるという奇妙な一面も持っていました。クモはヘーゼルナッツの味がし、イモムシは桃の味がすると語り、友人の家ではイモムシのラグーが用意されていたという逸話も残っています。

ラランドは才能ある女性を好み、その地位向上にも努めました。美しい女性を誉め、その一方で、自身の結婚には消極的で、生涯独身を貫きました。

多くの著名人と交友関係を持ちましたが、しばしばその態度や研究内容が批判の対象となることもありました。師のルモニエとは、月の視差測定を巡り意見が対立し袂を分かつことになりましたが、弟子からの指摘は率直に受け入れ、自らの誤りを認める一面も持っていました。

大の猫好きとして知られ、ねこ座を設定しましたが、広く認知されることはありませんでした。同様に、けいききゅう座、かんししゃメシエ座、しぶんぎ座も一般的には使われていません。ただし、しぶんぎ座は流星群の名前として現在でも使われています。

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