カシオミニ

カシオミニ：電卓の歴史を変えた一台

カシオミニは、1972年8月3日にカシオ計算機から発売された小型電卓であり、「世界初のパーソナル電卓」として広く知られています。それまで企業向け製品というイメージが強かった電卓を、個人にも普及させる契機となった画期的な製品でした。

開発の背景

1970年代初頭、企業向け電卓の売れ行きが伸び悩む中、カシオ計算機は新たな市場開拓として個人向け電卓の可能性に着目しました。「個人向けには1万円を切る価格でないと売れない」という判断から、当時の社員であった志村則彰氏を中心に、低価格化への挑戦が始まりました。

1971年秋に本格化した設計では、当初「3桁の加減乗除ができれば十分」というアイデアもありました。ボウリングのスコア計算に使えるという発想もありましたが、最終的には小数点以下の演算を省略し、「基本6桁、掛け算のみ12桁」という仕様に落ち着きました。また、当時主流だった商用電源ではなく、電池駆動であることも重要な要件でした。

志村氏は、「個人が計算するのはお金であり、100万円以上の計算はまずない。お金の計算には小数点も不要」という考えから6桁で十分と判断しましたが、市場の主流は8桁電卓であったため、当時の常務であった樫尾和雄氏に内々に相談し、開発を進めました。

コスト削減への挑戦

当時の電卓は、接点が密封されたリードスイッチをキースイッチに使用していましたが、カシオミニでは現代の電卓でも一般的なパネルスイッチを採用し、キー部分のコストを大幅に削減しました。LSI設計は、志村氏のアシスタントであった羽方将之氏が一人で担当し、1971年末にホテルに缶詰になり、回路図を完成させました。

1972年2月にはモックアップが完成し、製造原価が約4,500円であることが判明。日立製作所にLSIの製造を委託し、6月には試作チップが完成、8月の発表へと至りました。発売当初の価格は12,800円でしたが、これは発表当日の朝に当時の社長であった樫尾忠雄氏が独断で決定したと言われています。

大ヒットと価格競争

驚異的な低価格で発売されたカシオミニは大ヒットとなり、発売後10ヶ月で100万台、翌1973年末には200万台を突破しました。その後、他社からも同様の低価格電卓が発売され、激しい価格競争が繰り広げられました。しかし、カシオミニはシリーズ全体で約1,000万台を売り上げるという記録を打ち立てました。

「答一発、カシオミニ」のキャッチフレーズで知られるテレビCMも話題となりました。カシオは、直販から文具卸商を通じた販売体制に大きく転換し、テレビCMで一般消費者の購買意欲を刺激するという戦略を取りました。この販売チャネルの構築が、激しい価格競争の中でカシオが生き残れた要因の一つと言えるでしょう。

市場への影響

カシオミニの登場は、電卓市場を飽くなき価格競争の場へと変貌させました。テキサス・インスツルメンツ社のLSIチップを使用した、にわか電卓メーカーが多数現れましたが、競争に追いつけずに撤退を余儀なくされたメーカーも少なくありませんでした。

操作方法

初期のカシオミニ（CM-601まで）の入力操作は加算機方式であり、現在の一般的な入力方法とは一部異なります。

• - 引き算：引く数を先に置いてから「-」ボタンを押します。
• - 掛け算：答えが6桁を超えた場合は「→」ボタンで下の位を表示します。
• - 割り算：答えが小数になった場合は「→」ボタンで小数点以下を表示します。

シリーズ製品

カシオミニは、CM-601からCM-607まで、様々なモデルが発売されました。また、上位機種として、メモリ機能やルート機能を搭載したモデルも存在しました。

2012年には、カシオミニ発売40周年を記念して、ミニチュア復刻版が製作され、キャンペーンでプレゼントされました。この復刻版は、オリジナルモデルを小型化したもので、現在の電卓の機能に合わせて一部仕様が変更されています。

競合製品

カシオミニの成功を受けて、他社からも多くの競合製品が発売されました。これらの製品は、価格や機能でカシオミニに対抗し、激しい競争を繰り広げました。

カシオミニは、電卓の歴史において重要な役割を果たした製品であり、その影響は現代の電卓にも受け継がれています。

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