カストラート (映画)

『[カストラート]]』(原題: Farinelli) は、18世紀のバロック時代を彩った伝説的なカストラート歌手、ファリネッリ]の生涯を描いた[[伝記映画です。1994年にイタリア、ベルギー、フランス合作で制作され、ジェラール・コルビオ監督によって鮮やかに映像化されました。

幼少期、落馬事故により去勢されたカルロは、兄リカルドの献身的なサポートを受け、類まれな歌唱力を開花させます。兄はカルロのために作曲を行い、兄弟は互いに支え合いながら音楽の道を歩んでいきます。ナポリの街頭で歌声を披露するカルロは、英国宮廷の作曲家ヘンデルの目に留まり、ロンドンへの招聘を受けます。しかし、兄リカルドの反対により、この誘いは一旦断られることになります。

それから12年後、ファリネッリと名を変えたカルロは、ヨーロッパ中で活躍する人気歌手へと成長していました。その超絶的な歌声は、聴衆を熱狂の渦に巻き込み、多くの女性たちの心を奪います。兄弟は、カルロの演奏旅行に同行し、独特な関係を保ち続けました。

ドレスデンで出会った若い女性アレクサンドラからの依頼を受け、ファリネッリは兄と共にロンドンへ戻ります。そこでは、ファリネッリの師であるポルポラと、ライバルであるヘンデルが、それぞれ貴族オペラ座とコヴェント・ガーデン劇場で激しくしのぎを削っていました。ファリネッリの歌声は貴族オペラ座を大成功へと導き、ヘンデルの劇場は閑古鳥が鳴くほどの対照的な状況を招きます。

しかし、ファリネッリは兄が作曲したオペラに満足できなくなっていました。その葛藤を察知したアレクサンドラは、ヘンデルの楽譜を盗み出し、ファリネッリはヘンデルのアリアを歌うことを決意します。これは、長年続いた兄弟の協働関係の終わりを告げる出来事でもありました。

リカルドは、失われた弟との絆と自身のプライドを取り戻すため、未完のオペラの完成に没頭します。貴族オペラ座の初日、ヘンデルはファリネッリを挑発し、さらに彼の去勢が事故ではなく兄の策略だったことを暴露します。しかし、ファリネッリは絶望的な状況の中でも見事な歌声を披露し、ヘンデルを圧倒します。この出来事を境に、ヘンデルはオペラ作曲を、ファリネッリは舞台への出演を、それぞれ断念するのです。

3年後、ファリネッリはスペイン国王フェリペ5世のために歌うことを決意し、徐々に心の平穏を取り戻し始めます。そこに、完成したオペラ『オルフェオ』を携えたリカルドが現れますが、ファリネッリは兄を許すことができず、リカルドは自殺を図ります。しかし、アレクサンドラの愛が、兄弟の間にあった深い絆を蘇らせます。彼らは再びひとつの愛を分かち合い、リカルドはアレクサンドラとの間に子供をもうけます。そして、数か月後、リカルドは弟との最後の共作の成果を残して宮廷を去るのでした。

この映画は、ステファノ・ディオニジがファリネッリを、エンリコ・ロー・ヴェルソがリカルドを、エルザ・ジルベルスタインがアレクサンドラを演じています。また、ジェローン・クラッベがヘンデルを演じるなど、豪華なキャストが物語に深みを与えています。

特に、ファリネッリの圧倒的な歌声は、現代のカウンターテナー歌手では再現が不可能なほど高い音域と特殊な声質を持っていたため、映画では、高音域をソプラノ、低音域をカウンターテナーが担当し、フランスの電子音楽研究機関IRCAMの技術を用いて合成することで実現されています。この技術は当時画期的であり、映画製作に大きく貢献しました。

『カストラート』は、音楽、愛、兄弟愛、そして運命といった様々なテーマを織り交ぜ、観る者の心に深い感動を与える傑作です。史実とは異なる部分もありますが、ファリネッリの人生と音楽の素晴らしさを余すことなく表現した、見応えのある作品と言えるでしょう。

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