カストル (恒星)

ふたご座α星カストル：天空に輝く6連星の謎

ふたご座のα星として知られるカストルは、一見すると2つの星が寄り添っているように見えます。しかし、その実態は、天文学者たちを魅了し続ける複雑な6連星系です。肉眼では、やや暗い2等星として観測されますが、その輝きの奥には、重力によって結びついた6つの星が織りなす壮大な物語が隠されています。

見かけの双子と壮大な重力舞踏

カストルは、1等星のポルックスとともに、ふたご座を構成する主要な星です。古くから、夜空に輝くこの2つの星は、ギリシャ神話に登場する双子の兄弟、カストルとポルックスに例えられてきました。天球上では寄り添うように見えるこの2星ですが、その物理的な関係は、見かけほど単純ではありません。

カストル自身は、1718年にジェームズ・パウンドによって実視連星であることが発見されました。これは、望遠鏡によって2つの星に分離して見えることを意味します。さらに興味深いことに、1678年には既にジョヴァンニ・カッシーニが二重星として観測していた可能性も指摘されています。これらの2つの星、カストルAとカストルBは、互いに周回しあい、その公転周期は約460年にも及びます。1970年代には分離角はわずか2秒角でしたが、1997年には7秒角まで広がりました。それぞれの星の明るさは、カストルAが1.9等星、カストルBが3.0等星と異なります。

重層構造：4重星と赤色矮星連星

しかし、カストルの物語は、ここで終わりません。カストルAとカストルBは、それぞれが分光連星であることが明らかになっています。分光連星とは、望遠鏡では分離できないほど接近していますが、スペクトルの変化から連星であることがわかる星です。そのため、カストルAはAaとAb、カストルBはBaとBbという、計4つの星からなる4重連星系を形成しているのです。

さらに、カストルABから72秒角離れた位置には、カストルCという暗い伴星が存在します。このカストルCもまた、赤色矮星2個からなる分光連星であり、カストルCaとCbで構成されています。この2つの星は、約1日周期で互いに周回し合っています。カストルCは、りゅう座BY型変光星として知られており、ふたご座YY星という別名も持ちます。

これらの発見により、カストルは、カストルAa、Ab、Ba、Bb、Ca、Cbという、計6つの星が重力的に束縛された6連星系であると結論付けられています。

名称と歴史

カストルの学名はα Geminorum (略称はα Gem)です。その固有名である「カストル」は、ギリシャ神話に登場する双子の兄弟、カストルに由来しています。アラビアでは、「2つの腕のうち前にあるもの」を意味する呼び名がありました。2016年には、国際天文学連合によって、カストルはふたご座α星Aaの固有名として正式に承認されました。中国では、井宿の星官北河の第2星として「北河二」と呼ばれており、ポルックスは「北河三」と呼ばれています。

謎めいた輝き

カストルは、その複雑な構造と、未だ解明されていない謎によって、天文学者たちを魅了し続けています。将来の研究によって、この6連星系の更なる詳細が明らかになることが期待されます。その輝きは、遠い宇宙に広がる、壮大な重力舞踏の物語を私たちに語りかけているのです。

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