カソードルミネッセンス

カソードルミネッセンスとは

カソードルミネッセンス（Cathodoluminescence）とは、電子線が物質に衝突した際に、その物質が可視光の波長を持つ光を放出する現象のことです。この現象は、光電効果の逆の過程であり、物質内の電子がエネルギーを得て励起状態から基底状態に戻る際に、余剰なエネルギーが光子として放出されることで発生します。身近な例としては、ブラウン管テレビの画面が発光する仕組みが挙げられます。

カソードルミネッセンスの起源

カソードルミネッセンスは、半導体などの物質において、伝導帯の電子が価電子帯の正孔と再結合する際に発生します。このとき、余剰エネルギーが光子として放出されます。放出される光子のエネルギー（色）や、光子が放出される確率は、物質の組成、純度、結晶欠陥の有無などに左右されます。

カソードルミネッセンスでは、高エネルギーの電子線が物質に入射することで発光現象が始まります。入射した電子（一次電子）は、直接電子を励起するにはエネルギーが高すぎるため、物質中で非弾性散乱を引き起こし、二次電子やオージェ電子、X線などを発生させます。これらの二次的な電子が、価電子帯の電子を伝導帯へと励起させます。

電子線による励起の利点は、フォトルミネッセンスのように入射光のエネルギーによって調べられるバンドギャップエネルギーに制限がないことです。そのため、カソードルミネッセンスでは、半導体だけでなく、絶縁体、セラミックス、宝石、鉱石、ガラスなど、さまざまな非金属材料を対象とすることができます。

カソードルミネッセンス顕微法

カソードルミネッセンスは、地質学、鉱物学、材料科学、半導体工学など、さまざまな分野で応用されています。特に、走査型電子顕微鏡（SEM）にカソードルミネッセンス検出器を搭載することで、材料の内部構造や組成、成長過程、品質などを詳細に調べることができます。

走査型電子顕微鏡におけるカソードルミネッセンス

SEMに搭載されたカソードルミネッセンス検出器は、電子線が試料に照射された際に放出される光を集め、波長ごとに分離して検出します。これにより、試料の光学活性マップ（カソードルミネッセンスイメージング）や、特定の位置からの光の波長依存性（カソードルミネッセンス分光）を調べることができます。さらに、CCDカメラを用いることで、マップの各点におけるスペクトル情報を取得する（ハイパースペクトルイメージング）ことも可能です。これらのデータは、電子顕微鏡による構造観察の結果と組み合わせることで、より詳細な解析が可能になります。

電子顕微鏡を用いたカソードルミネッセンスの大きな利点は、その高い空間分解能です。SEMでは数十ナノメートル、透過型電子顕微鏡（TEM）ではナノメートルサイズの構造を識別することができます。また、ビームブランカーやパルス電子源を用いることで、時間分解能を向上させ、ナノ秒からピコ秒オーダーの現象を観測することも可能です。このような技術は、量子井戸や量子ドットなどの低次元半導体構造の研究に役立ちます。

光学カソードルミネッセンス顕微鏡は、電子顕微鏡に比べて倍率は低いものの、可視光による像を直接観察できるという利点があります。近年では、光学顕微鏡と電子顕微鏡の両方の利点を兼ね備えた複合システムも開発されています。

カソードルミネッセンスの応用

カソードルミネッセンスは、GaAsやGaNなどの直接遷移型半導体の研究に有効です。また、放射強度が弱いケイ素などの間接遷移型半導体の研究にも応用されています。特に、転位を持つケイ素のルミネッセンスは、純粋なケイ素とは異なるため、集積回路中の欠陥をマッピングするのに役立ちます。

さらに近年では、電子顕微鏡を用いたカソードルミネッセンスにより、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴を調べることができるようになってきました。また、誘電体フォトニック結晶やナノ構造フォトニック材料の局所状態密度をマッピングするのにも利用されています。

参考文献

B. G. Yacobi and D. B. Holt, Cathodoluminescence Microscopy of Inorganic Solids, New York, Plenum (1990)
C. E. Norman, Microscopy and Analysis, March 2002, P.9-12
S. A. Galloway et al., Physica Status Solidi (C), V0(3), P.1028-1032 (2003)
C. M. Parish and P. E. Russell, Scanning Cathodoluminescence Microscopy, in Advances in Imaging and Electron Physics, V.147, ed. P. W. Hawkes, P. 1 (2007)
Lähnemann, J. (2013). Luminescence of group-III-V nanowires containing heterostructures (pdf) (PhD Thesis). Humboldt-Universität zu Berlin.

外部リンク

An introduction to CL (from the Laboratory of Sedimentary System of the Seoul National University
Quick look cathodoluminescence analyses and their impact on the interpretation of carbonate reservoirs. Case study of mid-Jurassic oolitic reservoirs in the Paris Basin
Scientific Results about High Spatial Resolution Cathodoluminescence
Gatan, a company offering commercial cathodoluminescence systems for SEM and TEM
Attolight, a company offering commercial cathodoluminescence systems
DELMIC, a company offering commercial cathodoluminescence systems
HORIBA Scientific, a company offering commercial cathodoluminescence systems

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