カタリナ・トマシェヴィチ・コトロマニッチ

カタリナ・トマシェヴィチ・コトロマニッチ：ボスニア最後の王女の数奇な運命

カタリナ・トマシェヴィチ・コトロマニッチ（1453年生まれ）は、ボスニア王スティエパン・トマシュの娘であり、ボスニア王国の最後の王女でした。1463年、オスマン帝国によるボスニア侵攻の際、捕らえられイスラム教に改宗。故郷を離れ、異文化の中でその生涯を終えました。

生い立ち

カタリナは、スティエパン・トマシュ王とカタリナ・コサチャ＝コトロマニッチの間に生まれました。兄にシギスムンドがいます。1461年に父が亡くなると、異母兄のスティエパン・トマシェヴィチが王位を継承。兄の治世下、カタリナは母や兄とともにコゾグラド城で育てられたと考えられています。ただし、シギスムンドは王位継承者であったため、実際にはヤイツェの王宮で兄王の傍近くに置かれていた可能性も指摘されています。

王国の滅亡と捕囚

1463年5月、メフメト2世率いるオスマン帝国がボスニアに侵攻。ボスニア王家は抵抗を諦め、各地へ分散して逃れる道を選びました。カタリナは兄シギスムンドと共に母と別れて逃亡しましたが、ヤイツェ近郊でオスマン軍に捕らえられてしまいます。国王スティエパン・トマシェヴィチもクリュチで降伏し、斬首されました。一方、母カタリナは脱出に成功し、最終的にローマへ辿り着きます。

その後

兄シギスムンドは、イスラム教に改宗後、イシャク・ベイ・クラロールと名乗り、オスマン帝国の軍人として活躍しました。しかし、カタリナについては、イスラム教に改宗したという以上の確かな記録は残っていません。叔父であるヘルセクザデ・アフメド・パシャ（母の異母弟）が、彼らの改宗やオスマン帝国での教育に関与していた可能性が指摘されています。歴史家グリゴリイェ・エレゾヴィチは、カタリナの母方の大叔父であるイサ＝ベグ・イサコヴィチが、カタリナの後見人に任命されたのではないかという仮説を立てています。

ローマに亡命した母カタリナ・コサチャ＝コトロマニッチは、シギスムンドとカタリナを「トルコの虜囚から解放する」ための活動を続けました。1470年には「10歳の娘」について言及しており、これは捕囚から10年が経過したカタリナを指していると考えられています。1474年、母は身代金交渉のためオスマン帝国国境へ赴き、異母弟アフメド・パシャに協力を求めようとしましたが失敗。1478年に死去する際、もしカタリナがキリスト教信仰に戻り、シギスムンドが戻らない場合には、カタリナがボスニア王位を継承すべきであるという遺言を残しました。

エレゾヴィチは、カタリナがイスラム教への改宗後、改名して結婚し、スコピエで余生を送ったのではないかと推測しています。そして、スコピエのムスリム墓地にあるクラル・クズ廟に埋葬されている人物がカタリナであるという説を提唱しています。「クラル・クズ（王女）」という名前は、イスラム教に改宗した王女が埋葬されていることを示唆しており、カタリナが最も有力な候補とされています。もしそうであれば、カタリナは生涯未婚であった可能性もあります。なぜなら、既婚のムスリム女性は夫の名で埋葬されるのが一般的だからです。エレゾヴィチはまた、テトヴォ出身のムスリム貴族の一族が、スコピエの「クトゥルマン」の子孫であると主張していることにも注目しており、これがコトロマニッチ家を指している可能性も示唆しています。

カタリナ・トマシェヴィチ・コトロマニッチの生涯は、ボスニア王国の滅亡という激動の時代を背景に、故郷を離れざるを得なかった王女の悲劇を物語っています。彼女の足跡は謎に包まれていますが、その存在はボスニアの歴史に深く刻まれています。

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