ボスニア王国

ボスニア王国：中世バルカンの歴史を彩る王国

ボスニア王国（1180年頃 - 1463年）は、中世のボスニアに存在した国家です。その成立から滅亡まで、激動の歴史を辿りました。

成立の経緯

12世紀後半、ボスニアはバン（首長）の支配下で独立しました。当初は周辺諸国の君主に臣従することもありましたが、14世紀初頭、スチェパン・コトロマニッチの時代に勢力を拡大。ハンガリー王国の保護のもと、北西へ支配領域を広げ、1326年にはフム（ヘルツェゴヴィナ）を併合しました。

1353年にスチェパン2世が没すると、甥のスチェパン・トヴルトコ1世が地位を継承しますが、即位直後に多くの領土を失います。しかし、1360年代には支配権を回復し、1370年代にはフム全域とサンジャク地方の大部分を併合。1371年にセルビアのネマニッチ朝が断絶すると、トヴルトコ1世はセルビア王位を請求し、1377年に「セルビアとボスニアの王」として戴冠しました。以降、ボスニアの君主は王を称するようになります。

トヴルトコ1世の時代、ボスニアはセルビアに代わるバルカン半島最大の国家となりました。ハンガリーの内乱に干渉し、クロアチア、ダルマチアに勢力を拡大。セルビア侯ラザル・フレベリャノヴィチからは、援助の見返りとしてアドリア海沿岸部の地域を割譲されました。1378年にはブルガリア帝国の皇女と結婚し、アドリア海から黒海に至る大国を建設する野心を持っていたとも推測されています。1390年には「クロアチアとダルマチアの王」の称号も加えましたが、ヴェネツィアやハンガリーの支配下にある都市は支配できませんでした。

王国の内争とオスマン帝国の進出

トヴルトコ1世はセルビアと連合してオスマン帝国の進出を阻止しようとしましたが、1389年のコソヴォの戦いで敗北。1398年にはボスニアに初めてオスマン軍が侵入しました。

15世紀に入ると、国王と諸侯の抗争が頻発し、オスマン帝国、ハンガリー、セルビア公国が介入。トヴルトコ1世の死後、王位への影響力が増した大貴族たちは選挙王政の原則を確立しました。

1398年に即位したスチェパン・オストヤは外国との関係を緊密にしようとしましたが、大貴族との対立から廃位され、ハンガリーに追放されました。その後、スチェパン・トヴルトコ2世が国王に選出されますが、ハンガリーの攻撃を受け、1409年に亡命。オストヤが国王に再選されました。大貴族のフルヴォイエはオスマン軍の力を借りてハンガリー軍を追放しようとしましたが、1415年にハンガリーからの報復を受け、ボスニア・オスマン連合軍が勝利しました。

1421年にオストヤの長子スチェパン・オストイチが王位を追われ、トヴルトコ2世が復位。1428年にボスニアはオスマン帝国に従属し、1430年代にはセルビア人難民が流入しました。1448年にはフムの支配者ステファン・ヴクチッチ・コサチャがボスニアへの臣従を破棄し、「フムと沿岸地方のヘルツェグ（公爵）」を名乗り、彼の支配地はヘルツェゴヴィナと呼ばれるようになりました。

滅亡

オスマン帝国の圧力が増す中、1451年にはヴルフボスナ（サラエヴォ）が陥落。1453年にはコンスタンティノープルが陥落し、1459年にはセルビアがオスマン帝国の軍門に下ると、ボスニアへの進路が開かれました。1460年にボスニアはオスマン軍の攻撃を受けましたが、援軍は得られませんでした。

1461年、スティエパン・トマシェヴィチがローマ教皇から授与された王冠を用いて戴冠。オスマン帝国への貢納を拒否しましたが、1463年5月にオスマン皇帝メフメト2世がボスニアへ遠征。数週間後にはボスニアは征服され、トマシェヴィチは斬首され、ボスニア王国は滅亡しました。

社会と宗教

14世紀初頭、中央集権化を進めるスチェパン2世に対し、大貴族は抵抗し、自らの特権を拡大しました。トヴルトコ1世も関税徴収の強化、官制改革を実施しますが、大貴族の反発を受けました。15世紀にはルサーグと呼ばれる大貴族の集団が議会で強い影響力を持つようになり、中小貴族は大貴族に取り込まれました。

ボスニアには独立した教会（ボスニア教会）が存在し、カトリック教会の影響が及ばない状態が続いていました。1340年代にスチェパン2世によってフランシスコ会の宣教師が招かれ、修道院が建立されました。君主がカトリックに改宗した後もボスニア教会は許容されていましたが、1459年にローマ教皇はボスニア教会への迫害を要請。教会の聖職者は改宗か国外追放かの二択を迫られ、多くがカトリックを受容しました。

オスマン帝国のボスニア征服後、ボスニア教会は消滅し、信者はギリシャ正教、カトリック、イスラームを受け入れました。

ボスニア王国は、その成立から滅亡まで、周辺諸国との関係や内紛、オスマン帝国の進出といった激動の時代を経て、独自の文化を育んだ王国でした。

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