カプリオール組曲

『カプリオール組曲』（Capriol Suite）は、イングランドの作曲家ピーター・ウォーロック（Peter Warlock, 1894-1930）によって、1926年10月に完成された作品です。ウォーロックの創作活動の中でも特に広く親しまれ、頻繁に演奏される代表作の一つとして数えられています。作品名の「カプリオール」（Capriol）は、フランス語で「跳躍」や「宙返り」といった意味を持つ言葉であり、組曲全体にみなぎる活発で躍動的な性格を示唆しています。

この組曲は、もともとピアノ連弾のための楽曲として作曲されました。しかし、発表から間もなく、作曲者自身の編曲により管弦楽版と弦楽合奏版が生み出されています。特に弦楽合奏版は、その響きの美しさや親しみやすさから、今日最も広く演奏される形態となっています。原曲であるピアノ連弾版は、ウォーロックの友人であり、ブルターニュ地方出身の作曲家ポール・ラドミロー（Paul Ladmirault, 1877-1944）に献呈されました。

『カプリオール組曲』は、全部で6つの楽章から構成されており、全体の演奏時間はおよそ10分程度です。各楽章は、15世紀から16世紀にかけての古い舞曲にインスピレーションを得て作曲されていますが、単なる過去の様式の模倣にとどまらず、ウォーロック独自の洗練された感覚と現代的な和声、そして躍動的なリズム感が加えられています。それぞれの楽章は異なるキャラクターを持ち、組曲全体を通して変化に富んだ音楽が展開されます。

組曲を構成する6つの楽章は以下の通りです。

1. Basse-Danse（バス・ダンス）：アレグロ・モデラート、ニ短調。15世紀から16世紀にかけてヨーロッパで流行した、比較的ゆっくりとしたテンポで滑らかなステップが特徴の宮廷舞曲です。組曲の開始にふさわしい、落ち着きがありつつもリズム感のある音楽です。
2. Pavane（パヴァーヌ）：アレグレット、マ・ウン・ポコ・レント、ト短調。16世紀に流行した、威厳のある雰囲気を持つ荘重な行列舞曲です。ここでは「やや遅く、しかし少しゆっくりと」という指示があり、優美ながらも内省的な響きを持っています。
3. Tordion（トルディオン）：コン・モート、ト短調。パヴァーヌと対で演奏されることが多かった、より速いテンポで活発なステップを伴う舞曲です。「動きをもって」という指示通り、軽快なリズムが特徴です。
4. ブランズール（Branle）：プレスト、ト短調。フランス起源の円舞曲の一種で、手をつないで輪になって踊られました。様々な種類がありますが、この楽章は「極めて速く」という指示があり、非常にエネルギッシュで活気に満ちています。
5. Pieds-en-l'air（ピエ・ザン・レール）：アンダンテ・トランキージョ、ト長調。フランス語で「空中の足」を意味し、跳躍を含むステップを示す言葉ですが、この楽章は「穏やかに歩くような速さで、静かに」という指示が与えられており、組曲の中で唯一の長調による抒情的で柔らかな音楽となっています。
6. Mattachins（マタシン）：アレグロ・コン・ブリオ、ヘ長調。スペイン起源の剣の舞曲であり、荒々しく力強いリズムと鋭い旋律が特徴です。「速く、活気をもって」という指示通りの劇的なフィナーレであり、組曲を締めくくります。

ウォーロックは、トーマス・ジェンキンスやジョン・ダウランドといったエリザベス朝時代の作曲家たちに深い敬意を払っており、過去の音楽からのインスピレーションを自身の作品に取り入れることを得意としていました。『カプリオール組曲』もその一例であり、ルネサンス期の舞曲を現代的な感性で再構築することで、古さと新しさが融合した独特の世界を創り出しています。その明快な構成と魅力的な旋律は、発表以来現在に至るまで、多くの音楽ファンや演奏家から愛され続けています。

なお、この組曲の楽譜は、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）のウェブサイト上で公開されており、無料で閲覧・入手することが可能です。

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