ピーター・ウォーロック

本名フィリップ・アーノルド・ヘゼルタインとして知られるピーター・ウォーロックは、20世紀前半のイギリス音楽界において、作曲家と音楽評論家の二つの顔を持つ個性的な存在でした。「ウォーロック」（魔法使い）という筆名を用いたのは、主に作曲活動を行う際です。その短い生涯に、特に歌曲の分野で独特な光彩を放つ作品群を生み出しました。

生涯

1894年にロンドンに生まれたヘゼルタインは、幼い頃に父を亡くし、古典文学を中心とした教育を受けましたが、音楽はほとんど専門教育を受けず、独学で学びました。フレデリック・ディーリアスらを敬愛し、その作品から作曲技法を習得しました。また、エリザベス朝時代の音楽や詩、そしてケルト文化にも深い関心を寄せ、そこから大きな影響を受けています。

音楽家としての活動は、1917年から18年にかけてのアイルランド滞在を機に本格化しました。最初の作品群をピーター・ウォーロック名義で発表すると、批評家から高い評価を得ました。その後しばらくは、音楽ジャーナリズムの世界に軸足を移し、音楽雑誌「ザ・サックバット」の編集者としても活躍しています。

1920年代初頭、ロンドンの喧騒を離れウェールズ中部のケヴンブリンタルクスに移り住んだ時期は、作曲家、著述家双方にとって最も実り豊かな創造期となりました。ここで、彼の代表的な歌曲の多くが生まれ、イェイツの詩に基づく連作歌曲「シャクシギ」もこの時期に構想、作曲されました。

数年間の静穏な生活を経て、1925年から29年にかけては、ケント州のアインズフォードで豪快な共同生活を送りました。この時期もウォーロックにとって創作活動の絶頂期でしたが、1920年代の終わりが近づくにつれて創造力は陰りを見せ始め、再び音楽評論家として生計を立てる必要に迫られます。また、深刻なうつ病に苦しむようになり、1930年、わずか36歳でガス中毒によりこの世を去りました。この死が自死であったのか、あるいは不慮の事故であったのかは明らかになっていません（死の直前に飼い猫を部屋から出したという逸話が残されています）。

作品

ウォーロックの作品の中心をなすのは、独唱とピアノのための歌曲です。抒情的なものからユーモラスなものまで、幅広い感情を表現しています。歌曲の他にも、いくつかの合唱曲も手掛けています。

器楽曲としては、小品がいくつか残されており、中でも「カプリオール組曲」は最も広く知られています。弦楽オーケストラ版や管弦楽版、ピアノ連弾版などが存在します。弦楽セレナードも代表作の一つです。

彼は詩をこよなく愛し、イェイツらの作品に感銘を受けていました。自身の作品の歌詞には常に芸術性の高いものを選び、中世の詩も多く採用しています。

評論家や聴衆の多くが最高傑作として挙げるのが、テナー独唱と室内合奏のために書かれた連作歌曲「シャクシギ」です。イェイツの四つの詩をテキストに、約7年をかけて改稿を重ねて完成されました。この作品には、初期のスタイルからバルトークやシェーンベルクの影響を感じさせる部分まで、彼の音楽語法の変遷が反映されています。

また、クリスマスのキャロルも数多く作曲しており、「アダムは縛られて」「ベツレヘム・ダウン」といった作品が特に有名です。

ウォーロックの音楽スタイルは、初期には洗練されたヴィクトリア朝やエドワード朝の様式を踏襲していましたが、次第に対位法的なテクスチュア、旋法、独自の大胆な和声付けを特徴とする個性的な音楽語法を確立しました。同時代の民謡運動からはほとんど影響を受けていない点が特徴です。

編集・研究活動

オリジナル作品の創作に加え、ウォーロックは音楽研究者としても重要な足跡を残しました。ジョン・ダウランドをはじめとするエリザベス朝・ジャコビアン時代のリュート歌曲や、ヘンリー・パーセルなどのバロック期の作品を数多く編集・編曲し、古楽の普及に貢献しました。また、敬愛するフレデリック・ディーリアスの作品を広めるために尽力し、伝記も執筆しています。さらに、音楽史・評論分野でも著作を残しており、特に著書「イギリスのエアー」やシェーンベルクに関する論文は注目されています。

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