カプ＝フランセの海戦

カプ＝フランセの海戦：1757年、カリブ海で繰り広げられた英仏の激突

1757年10月21日、七年戦争のさなか、サン＝ドマング（現在のハイチ）のカプ＝フランセ沖で、イギリス艦隊とフランス艦隊が激突しました。この海戦は、イギリスのアーサー・フォレスト代将率いる戦列艦3隻が、フランスへ向かう商船を攻撃しようとした際に起こりました。

戦いの背景

イギリス艦隊は、トマス・コーツ少将の命令を受け、ジャマイカから出航。フランスへ向かう船団を襲撃する任務を帯びていました。フォレスト代将の旗艦である60門艦オーガスタ、モーリス・サックリング艦長が率いる60門艦ドレッドノート、そしてウィリアム・ラングドン艦長が指揮する64門艦エディンバラの3隻が、その任に当たっていました。10月21日、イギリス艦隊はカプ＝フランセ沖に到着し、フランス船団の捜索を開始しました。

一方、フランス商船隊の護衛を務めていたのは、ギー＝フランソワ・ド・ケルサン率いるフランス艦隊でした。しかし、ケルサン艦隊は直近で大幅に増強されており、フォレスト艦隊が到着した時点では、戦列艦4隻と大型フリゲート3隻という大戦力となっていました。自軍の優勢を確信したケルサンは、イギリス艦隊に対し先制攻撃を仕掛け、拿捕を試みました。

ケルサン艦隊は、旗艦である70門艦アントレピードに加え、クラヴェーレ艦長の70門艦セプトレ、ムリュー艦長の64門艦オピニアトレ、フーコー艦長の50門艦グリニッジ、44門フリゲートのウターデ、32門フリゲートのスヴァージェ、そしてフリゲートのリコーナで構成されていました。

激戦の火蓋

フランス護衛艦隊が予想をはるかに上回る規模であることを知ったフォレストは、ただちに全艦長をオーガスタの後甲板に招集し、緊急会議を開きました。フォレストが「諸君、彼らは我々と交戦しようと出てきたようだね」と述べると、サックリングは「彼らを失望させてしまうことが残念だね」と応じ、ラングドンもそれに同意しました。フォレストは「よかろう、各自持ち場に戻れ」と指示し、わずか30秒ほどの短い会議を終えました。

イギリス艦隊は、サックリングのドレッドノート、フォレストのオーガスタ、そしてラングドンのエディンバラの順に一列に並び、フランス艦隊に向かって進撃を開始しました。午後3時20分、戦闘が開始され、2時間半にわたる激しい砲撃戦が繰り広げられました。その後、ケルサンは自軍のフリゲートに対し、損傷した旗艦アントレピードを曳航するよう命令を下しました。しかし、この命令がフランス艦隊に混乱を引き起こし、アントレピードやグリニッジなど数隻のフランス艦が互いに絡み合ってしまう事態となりました。絡まった艦は、オーガスタとエディンバラからの激しい砲火に晒されることとなりました。

他のフランス艦は戦闘から離脱しました。イギリス艦隊は、すでに戦死23名、負傷89名という損害を被り（オーガスタ：戦死9名、負傷29名、ドレッドノート：戦死9名、負傷30名、エディンバラ：戦死5名、負傷30名）、マストや帆柱も損傷し、追撃できる状態ではありませんでした。そのため、イギリス艦隊はジャマイカへ帰還し、修理を行うこととなりました。一方、ケルサンもカプ＝フランセに戻り、戦艦の修理を行った後、11月に再び商船を護送してフランスへ向かいました。フランス艦隊の損害は、死傷者約500～600名に達し、アントレピードはマストを破損、グリニッジは深刻な浸水に見舞われました。

戦いの後

海戦自体は決着がつかず、ケルサンが護送した商船は遅延したものの、11月の再出港で無事にフランスに到着しました。しかし、イギリスの艦長たちは、圧倒的な戦力差にもかかわらず果敢に攻撃を仕掛けた勇気が賞賛されました。海軍歴史家のジョン・ノックス・ロートンは、「作戦の功労者はフォレストと彼の部下たちであり、彼らは躊躇することなく格上の相手に攻撃を仕掛け、まるで全く不利ではなかったかのように戦った」と評価しました。

しかし、ケルサンには不幸が待ち受けていました。護送艦隊は嵐に巻き込まれ、アントレピード、グリニッジ、ウターデがフランス目前で難破してしまったのです。グリニッジは、かつて1757年3月18日にロバート・ロッダム艦長の指揮下でフランスのジョセフ・ド・ボッフルモン代将に拿捕されていましたが、1758年1月1日に難破し、短い生涯を終えました。

ネルソン提督への影響

この海戦、そしてイギリス軍の勇猛さの記憶は、18世紀を通して語り継がれました。モーリス・サックリングの甥であるホレーショ・ネルソンは、叔父の武勇伝を知っていたと考えられています。ヴィクトリーの軍医ウィリアム・ビーティは、ネルソンがトラファルガー海戦の48年前の同日、1805年10月21日に「10月21日は彼の家族にとって最も喜ばしい日である」と理由を言わずに述べたと記録しています。また、ネルソンはしばしばトマス・ハーディやアレクサンダー・ジョン・スコットに対し、「10月21日は我々の日になる」と語っていたと伝えられています。そして、その日はトラファルガー海戦の勝利の日、そして彼の命日となりました。カプ＝フランセの海戦は、ネルソン提督のその後の活躍に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

もう一度検索