カホフカダム破壊事件

カホフカダム破壊事件：ドニエプル川を襲った人災

2022年ロシアのウクライナ侵攻のさなか、ドニエプル川に位置するカホフカダムが破壊されるという重大な事件が発生しました。この事件は、単なるインフラの損害にとどまらず、広範囲な洪水被害と、両国間の深刻な対立を浮き彫りにする出来事となりました。

事件の概要

カホフカダムは、カホフカ水力発電所の取水ダムとして建設され、上部には道路と鉄道が敷設された交通の要衝でもありました。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、ダムと周辺地域はロシア軍に占領されました。その後、ドニエプル川を挟んで両軍が対峙する状況が続く中、2023年6月にダムが破壊され、カホフカ貯水池の水が溢れ出し、下流域のヘルソン州を中心に農地や住宅地が広範囲に水没する深刻な被害が発生しました。

このダム破壊の原因について、ロシアとウクライナは互いに相手側の攻撃によるものと非難しており、真相は未だに解明されていません。国際連合も調査に乗り出しましたが、具体的な原因の特定には至っていません。しかし、この事件は、ロシアのウクライナ侵攻という紛争がもたらした悲劇の一つとして、深く記憶されることとなりました。

事件の背景

2022年2月のロシア侵攻開始直後から、カホフカダムと貯水池一帯はロシア軍の支配下に置かれました。同年7月、ウクライナが南部奪還作戦を本格化させると、ヘルソン州一帯でウクライナ軍の反撃が活発化しました。ドニエプル川にかかる橋は限られていたため、ダム上部の道路と鉄道は重要な補給路としての役割を担いました。

同年7月には、ロシア側がウクライナ軍による水力発電所への砲撃を主張。その後、イギリス国防省は、ウクライナ軍による精密攻撃によってダム上部の道路が破壊されたと指摘しました。これにより、重車両の通行が不可能となり、ダムの重要性がより一層高まりました。

10月には、ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシア軍がダムと発電所に地雷を敷設したと主張し、両国が互いにダムの爆破を計画していると非難し合いました。さらに11月には、ヘルソン市で停電が発生し、ロシア側はウクライナ軍の攻撃によるダムの損壊が原因だと主張しました。このように、ダムは紛争の最前線として常に緊張状態にありました。

ダム破壊の発生と被害

2023年5月、カホフカ貯水池の水位は過去最高を記録し、異常な状態が観測されていました。同年6月1日から2日にかけて橋の一部が失われ、5日夜から6日未明にかけて大規模な構造崩壊が発生しました。6月6日には、ダムからの溢水が激化し、下流域では水位が急上昇し、多数の集落が洪水の危機にさらされました。

ダム破壊後、ロシアとウクライナは互いに相手側の攻撃を主張しましたが、意図的な破壊工作なのか、それとも事故によるものなのかは不明です。国際連合のグテーレス事務総長は、「破壊の原因は不明」としながらも、「これもロシアのウクライナ侵攻による壊滅的な結果だ」と指摘しました。

この事件を受け、国際連合安全保障理事会は緊急会合を開催し、避難民への支援や安全な水の確保、農作物への影響、そして洪水で流された地雷や爆発物の危険性などが議論されました。

洪水による被害

2023年6月6日に発生した洪水による被害は甚大で、ウクライナ側の発表によれば12億ユーロに達しました。6月20日時点で50人以上の死亡が確認され、1万7000人以上が避難を余儀なくされました。一方、ロシア側の発表では、住宅やインフラの被害額は約400億ルーブルと報告され、死者・行方不明者は17人に上りました。さらに、発電所の修復には1年半から2年を要すると見込まれています。

まとめ

カホフカダム破壊事件は、ロシアのウクライナ侵攻という紛争の中で起きた人災として、その深刻さを物語っています。重要なインフラの破壊がもたらした甚大な被害と、両国間の対立は、国際社会に深い教訓を与えました。復興に向けた努力が続けられる一方で、この事件の教訓を忘れず、平和的な解決に向けた国際的な協力が求められています。

関連項目

北クリミア運河
ザポリージャ原子力発電所

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