カヤン新領土党

カヤン新領土党（Kayan New Land Party、略称: KNLP）は、ミャンマーに居住するカヤン族を基盤とした政治組織であり、武装部門と行政部門を擁しています。軍事組織としてカヤン新領土軍（KNLA）、行政機関としてカヤン新領土革命評議会（KNLRC）を設置しています。

結成とその背景

KNLPは1964年に設立された武装組織です。その背景には、1962年のクーデター後に成立したネウィン政権の強権的な政策がありました。特に、1963年にはペコン郡区でのモーバイダム建設への反対運動が発生し、また1964年5月には予告なしの高額紙幣廃止が行われました。これらの政府への反発が、1964年6月4日にペコン郡区の住民による軍前哨基地襲撃という形で武装闘争へと繋がりました。初期の武装組織は抗日活動の指導者ボー・ピャンによって組織されましたが、後に元ラングーン大学学生のシュエエイが加わり、同年8月8日にカヤン新領土党として正式に結成されました。設立の動機については、高額紙幣廃止への反発やダム反対運動の流れ、あるいはカトリック宣教師追放を受けた信教の自由の追求など、複数の要因が指摘されています。

他組織との関係

KNLPは当初、カレンニー民族進歩党（KNPP）と協力関係にあり、1976年には民族民主戦線（NDF）に参加しました。しかし、ビルマ共産党（CPB）との連携を深めるため、1977年にNDFを脱退します。国境から遠く外国からの支援が困難であった地理的条件もあり、1979年にはCPBと同盟関係を築きました。また、パオ族左派のシャン州諸民族人民解放機構（SSNPLO）や、KNPPから分派したカレンニー民族人民解放戦線（KNPLF）といった他の左派少数民族武装組織とも共闘しました。

強力な同盟相手であったCPBが1989年に崩壊すると、KNLP内部でも動揺が生じました。1991年には約60名の兵力を持つカヤン民族守備隊（KNG）が分裂し、軍事政権との停戦交渉に踏み切りました。同年6月20日、KNLPは再びNDFに加わっています。

停戦とその後

主要な同盟相手を失ったKNLPは、1994年7月26日にミャンマー軍事政権と停戦合意を結びました。これにより、カヤー州第3特区として一定の自治が認められ、支配地域内の森林伐採や鉱山開発といった経済的利権を獲得しました。しかし、軍事政権との関係は常に安定していたわけではなく、ウィキリークスで公開された文書では「熱くも冷たくもある関係」と評されています。2005年には、ミャンマー軍の支援する民兵との衝突により、KNLPは支配地域からの撤退を余儀なくされたこともあります。停戦後、KNLPはミャンマー軍と比較的緊密な関係を維持し、民兵に近い位置づけにあると見なされるようになりました。2009年には、ミャンマー軍の統制下に入る国境警備隊（BGF）や民兵への転換圧力を受けましたが、KNLP側はこれに応じなかったとされています。

KNLPは軍事政権から「交渉相手」と見なされ、国民議会に招かれたこともありましたが、その後のテインセイン政権期における全国停戦合意（NCA）や連邦和平会議（21世紀パンロン）からは除外されました。しかし、2015年11月にワ州連合軍（UWSA）が主催したパンサン会議に参加するなど、少数民族武装組織の一つとして政治的な活動を継続しています。

2021年クーデター後の動向

2021年2月のクーデター以降、KNLPはミャンマー軍との直接的な衝突を避けつつ、抵抗勢力に対して「背後からの支援」を行うという生存戦略をとっています。国民防衛隊（PDF）の訓練に関与するなど、水面下で抵抗勢力との連携を深めています。また、クーデターに抗議して逮捕された市民の釈放を軍事政権に働きかけ、実現させるなど、独自の活動も行っています。

一方で、その立場は複雑で曖昧です。2021年5月には、KNLPの部隊がPDFと共にミャンマー軍と衝突したという報告がありましたが、同年6月にはKNPLFやカレンニー民族平和発展党（KNPDP）と連名で、カレンニー諸民族防衛隊（KNDF）名義での停戦を宣言するなど、矛盾するような動きも見られます。2022年3月には他の民兵組織と同様にミャンマー軍から武器供与を受けるなど、軍との関係が続いている一方で、KNLPの基地がミャンマー軍の空爆対象となるケースも発生しています。抵抗勢力によるミャンマー軍陣地への攻撃をKNLPが妨害したという報告もあり、その立ち位置の複雑さがうかがえます。

カレンニー州暫定執行評議会（IEC）が多様な民族を含む「カレンニー」という地理的概念に基づいた自治を目指すのに対し、KNLPはカヤン族を中心とする「カヤン州」の設立を目標としており、民族的な目標の違いも存在します。軍事政権と直接戦っていないというカヤンの若者からの批判に対応するため、モーバイ、プルーソー、西部デモーソーのPDFの一部を「カヤン民族軍（KNA）」として組織するなど、軍との対立を避けつつも抵抗の姿勢を示すという、巧みな、あるいは曖昧な戦略を採用しています。

政治活動と他勢力との関係

KNLPは、民主化勢力との連携も模索してきました。1998年にはKNPLFやSSNPLOと合同で国民民主連盟（NLD）を支持し、1990年総選挙の結果に基づく国会召集と、軍事政権、NLD、少数民族組織による三者協議を提唱しています。2004年には国民会議において、他の7つの少数民族武装組織と共に、新憲法における軍の権限見直しや少数民族の自治権尊重を求める共同声明を発表しました。2014年には、軍が事実上の拒否権を持つ憲法第436条改正を目指すNLDの主張を支持し、2015年総選挙ではミャンマー軍の与党である連邦団結発展党（USDP）以外の政党を支持すると表明しました。KNLPとNLDの間には、KNLP幹部の娘がNLD候補として当選するなど、個人的な繋がりも存在します。国民統一政府（NUG）で人権省副大臣を務めるバハンタン氏は、KNLP創設者の一人であるシュエエイ氏の子息であり、KNLPで対外同盟担当を務めた経験があります。

主要な分派：カヤン民族守備隊（KNG）

1991年にKNLPから分裂したカヤン民族守備隊（KNG）は、1992年に軍事政権と停戦条約を締結し、「カヤー州第1特区」として自治を認められました。ガブリエル・ビャンが率いていましたが、1993年に殺害されて以降はテイコー氏が指導者となっています。KNGは国民議会に参加したものの、その後政治的な活動はほとんど行っておらず、2009年にはミャンマー軍傘下の人民民兵（PMF）に転換しました。KNGは麻薬取引に深く関与しているとされており、支配地域でアヘンケシ栽培を行い税金を徴収したり、ヘロイン精製所を運営していると報告されています。2021年クーデター後、2022年3月にはミャンマー軍の民兵として抵抗勢力と戦闘した時期もありましたが、その後は目立った衝突は行っていません。現在の兵力は30〜40名程度と見られています。

教育への取り組み

KNLPは、支配地域における教育にも力を入れています。2022年にはカヤン民族教育委員会（KNEC）を設立し、145校の基礎教育学校を監督し、1,000人以上の教職員を雇用しています。これらの学校のうち70校ではカヤン語教育が行われ、残りの学校ではビルマ語教育が行われています。KNECは13,000人以上のカヤン地域の学生に教育機会を提供しており、カレンニーIECの管轄からは独立して運営されています。さらに、2024年10月の開校を目指して、初の高等教育機関であるカヤン民族大学の設立を進めています。大学では教育学、農学、健康科学、開発社会学、計算機科学、カヤン文学・言語の6科目が開講される予定で、将来的には他の分野へも拡張する計画です。安全上の理由から、大学の具体的な所在地は非公開とされています。

ミンマティ鉱山を巡る争議

近年、KNLPはシャン州南部のペコン郡区にあるミンマティ鉱山を巡って住民との深刻な対立を抱えています。英国植民地時代から地元住民が採掘を行っていたこの鉱山において、KNLPは1994年の停戦後、Four Star Kayan Region Development社（KNLP議長タンソーナイン氏が所有）の名義で独占的な採掘事業を開始しました。2000年以降、Four Star社は住民への通知なく鉱区指定を行いました。2019年には中国企業との共同開発計画もありましたが、問題が生じ中断しています。

2025年3月には、中国資本のMr. Wan社がFour Star社と鉛と金属の採掘に関する5年契約を結び、機械による採掘許可を得ました。鉱山近隣に居住するプラドン氏族（カヤンの一支族）の住民は、11の村、約5,000人に影響が出る恐れがあるとして採掘中止を求めましたが、会社側は対話を拒否しました。これに対し、4月24日にはティチェイッ村の住民が鉱山への物資輸送車両を阻止し、中国企業の武装警備員との間で乱闘が発生しました。その後も住民は採掘機械の搬入を阻止し、5月1日から5月5日にかけて抗議運動を展開した結果、鉱山は一時的に操業を停止しました。

KNLPが5月5日に発表した声明では、この抗議運動を「違法な社会組織が一部の無知な若者を扇動し、欺き、村人に対して暴力行為を行い、カヤン地域の平和と安定を脅かしている」と非難しており、住民側への警告と受け止められています。5月9日にはKNLPとプラドン氏族の間で再び協議が行われましたが、合意には至りませんでした。さらに同月16日、プラドン氏族の指導者2名がKNLP議長の邸宅でタンソーナイン氏らと会談した後、タンソーナイン氏の部下によって拘束されるという事態が発生し、問題は一層深刻化しています。

まとめ

カヤン新領土党（KNLP）は、カヤン民族の権利と自治を追求する組織として、武装闘争、停戦、他勢力との複雑な連携、そして最近のクーデター後の情勢における独自の立ち位置など、多岐にわたる歴史を歩んできました。経済的利権の確保、教育事業への注力といった側面を持つ一方で、鉱山開発を巡る地元住民との深刻な対立を抱えるなど、その活動はミャンマーの複雑な民族問題と政治状況を反映しています。

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