カラジョルジェ

カラジョルジェ：近代セルビア建国の祖

カラジョルジェ（Karađorđe）、本名ジョルジェ・ペトロヴィチ（Đorđe Petrović）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて生きたセルビアの英雄です。オスマン帝国支配下における第一次セルビア蜂起（1804年-1813年）の指導者として、セルビアの独立運動を牽引し、近代セルビア建国の祖として、セルビア国民から深く敬愛されています。

生涯

1768年、カラジョルジェは、オスマン帝国統治下のシュマディヤ地方ヴィシェヴァツ村で生まれました。モンテネグロ系の家庭は貧しく、彼自身も若い頃から腕っぷしの強さで知られていましたが、その性格から暴力事件も絶えませんでした。結婚を巡る争いから父と兄が処刑されるという悲劇に見舞われ、オーストリアへ逃亡を余儀なくされます。

1788年に墺土戦争が勃発すると、カラジョルジェはオーストリア軍に義勇兵として参加し、オスマン帝国軍と戦います。この時の軍事経験が、後のセルビア蜂起において大いに役立つことになります。

戦争終結後、故郷に近いトポラに戻ったカラジョルジェは、一時ハイドゥク（山賊）と行動を共にします。シュマディヤ地方は森林が多く、牧畜に適した土地柄でした。彼は家畜の取引で財を築き、豚商人として成功を収めます。

1800年以降、「ベオグラード・パシャリク」では、イェニチェリ（オスマン帝国の精鋭部隊）の専横が目立つようになります。特にダヒヤと呼ばれるイェニチェリの幹部たちが実権を掌握し、セルビア人への圧政を強めました。1801年には、セルビア人の信望を集めていたムスタファ・パシャが暗殺され、1804年には、クネズ（村長）と呼ばれる有力者たちが多数虐殺される事件が発生し、民衆の不満は頂点に達します。

1804年、シュマディヤ地方の中心地であるオラシャツに、クネズ、ハイドゥク、そして多くの農民が集結し、蜂起を決意します。カラジョルジェは、その軍事経験とリーダーシップを買われ、蜂起軍の指導者に推戴されました。

蜂起とその後

蜂起の指導者となったカラジョルジェは、参加した有力者たちの拠り所となり、彼らの間を調整しながら、オスマン帝国軍との戦いを指揮しました。彼はナポレオン・ボナパルトに蜂起への介入を呼びかけますが、これは実現しませんでした。また、ロシアからの援助も一時的に受けましたが、ナポレオンのロシア遠征によって中断されます。

ロシアがオスマン帝国に対し、蜂起したセルビア兵士の引き渡しに同意したことを機に、カラジョルジェは蜂起の指導的立場を退き、ハプスブルク帝国領内へ逃亡しました。

その後、ロシアのベッサラビアへ亡命したカラジョルジェは、ギリシャ独立を目指す秘密結社フィリキ・エテリアと接触するなど、国外から独立運動を指揮しました。1817年、ミロシュ・オブレノヴィッチ（後のセルビア公ミロシュ1世）から共同での行動を持ちかけられ、セルビアへ帰国しますが、ミロシュの刺客によって暗殺されます。遺体は、かつて自宅のあったトポラに埋葬されました。

カラジョルジェヴィチ家

カラジョルジェは、セルビアの名門貴族であるカラジョルジェヴィチ家の祖となりました。彼の子孫は、セルビア王国、ユーゴスラビア王国の国王を輩出し、1945年にユーゴスラビア社会主義連邦共和国が成立するまで、国内の政治・社会に大きな影響力を行使し続けました。

カラジョルジェの生涯は、セルビア独立の礎を築いた英雄の物語として、今もなおセルビア国民に語り継がれています。

もう一度検索