カラーライン

ボクシングにおけるカラーライン：人種差別と権威の歴史

カラーラインとは、かつてボクシング界に存在した、チャンピオン（主に白人）が黒人ボクサーとの対戦を拒否できる制度であり、人種差別の一形態でした。この制度は、単に白人が黒人を嫌悪していたというよりも、黒人ボクサーの実力を恐れ、彼らがチャンピオンになることで白人の権威が脅かされることを恐れた結果として生まれたと考えられています。

カラーラインの歴史

カラーラインを最初に用いたのは、初代世界ヘビー級王者のジョン・L・サリバンでした。彼は、西インド諸島出身の黒人ボクサー、ピーター・ジャクソンの実力を恐れ、対戦を避けるためにこの制度を利用しました。この行動は、黒人ボクサーの台頭を恐れる白人ボクシング界の姿勢を象徴するものでした。

第4代世界ヘビー級王者のジェームス・J・ジェフリーズもまた、在位中にカラーラインを用いて黒人とのタイトルマッチを拒否しました。しかし、彼はタイトルマッチではない変則試合では、黒人実力者のハンク・グリフィンと対戦しています。これは、黒人ボクサーの実力を完全に無視することができなかった一方で、タイトルをかけて戦うことには抵抗があったことを示唆しています。

第7代世界ヘビー級王者で、黒人であるジャック・ジョンソンがマン法で逮捕され、パリに逃亡すると、アメリカのプロモーターたちは1913年1月1日に勝手に世界ヘビー級タイトルマッチを組み、白人同士で王者を決定させました。この試合で勝利したルーサー・マカーティは、正規の世界王者とは認められていません。マカーティもまたカラーラインを宣言し、黒人との試合を拒否しました。しかし、彼は世界王座防衛戦の直前に落馬事故で命を落としました。この出来事は、白人ボクシング界が世界王座を白人の手に戻そうとしていた強い願望を示しています。

ジャック・ジョンソンの矛盾

カラーラインに苦しめられたジャック・ジョンソン自身も、皮肉にも王座奪取後は、黒人の実力者（サム・ラングフォードなど）との対戦を拒否し、実質的にカラーラインを引いたことがあります。当時の黒人ボクサー同士のタイトルマッチは興行的に訴求力が低かったことが原因とされますが、黒人コミュニティからは失望の声が上がりました。

特に、黒人強豪ジョー・ジャネットは、ジョンソンの態度に激しく憤慨し、「世界チャンピオンになったことで、ジャックは旧友を忘れてしまった。彼は同胞に対してカラーラインを引いた」と非難しました。ジョンソンは1913年になってようやく、在位中唯一の黒人ボクサーとの防衛戦に臨みましたが、その相手は黒人ヘビー級王座の獲得経験者ではなく、ラングフォードに1敗、ジャネットに4敗しているジム・ジョンソンというボクサーでした。この試合はドローに終わり、ジョンソンは辛うじて王座を防衛しました。

カラーラインの影響

カラーラインは、ボクシング界における人種差別を象徴する出来事であり、黒人ボクサーの才能を不当に抑圧しました。この制度は、スポーツの世界でさえ人種差別が根強く存在していたことを示しています。また、この歴史は、権威や支配が人種差別と深く結びついていることを物語っています。カラーラインは、ボクシングの歴史において、決して忘れてはならない教訓であり、スポーツ界における公平性と平等の重要性を再認識させるものです。

この制度は、黒人ボクサーの活躍を妨げ、ボクシング界全体の発展を遅らせただけでなく、社会全体における人種差別の根深さを浮き彫りにしました。カラーラインの歴史を振り返ることで、私たちはスポーツを通じた社会正義の実現に向けて、より一層努力する必要性を認識することができます。

このカラーラインの歴史は、単なるスポーツ史の1ページではなく、社会における人種差別と闘うための重要な教訓として、後世に語り継がれるべきでしょう。

出典

ジョー小泉『ボクシング珍談奇談』リング・ジャパン、2004年1月。ISBN 978-4-434-04029-0。

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