カリュドーン (ギリシア神話)

カリュドーン（古希: Καλυδών、ラテン語: Calydon）は、古代ギリシア神話に登場する重要な人物であり、特にアイトーリア地方の伝承と深く結びついています。彼の名は、同地方に位置した名高い都市カリュドーンの名前の由来となったとされています。この都市は、後に有名な「カリュドーンの猪狩り」の舞台としても歴史に名を残しました。

カリュドーンの系譜については、主に二つの異なる伝承が存在します。最も一般的な説によれば、彼はアイトーリア地方の王であったアイトーロスと、ポルボスの子であるプロノエーとの間に生まれたとされています。この伝承では、カリュドーンにはプレウローンという兄弟がいたと語られています。アイトーロスは、エレイス地方からアイトーリアに移住し、この地を支配した祖とされる人物です。

カリュドーン自身は、アミュターオーンの娘であるアイオリアーを妻として迎えました。アイオリアーとの間には、二人の娘が生まれました。姉妹の名は、エピカステーとプロートゲネイアです。この二人の娘は、それぞれがその後のギリシア神話の系譜において重要な役割を果たすことになります。

一方、別の伝承では、カリュドーンは兄とされるプレウローンの子であるとも語られています。この説においては、彼にはクーレースという兄弟がいたとされています。このように、カリュドーンの出自に関しては複数の説が存在しており、神話伝承の多様性を示しています。しかし、いずれの説においても、彼はアイトーリア地方の支配的な家系と深く関わりのある人物として描かれています。

特に、カリュドーンの名が都市カリュドーンの由来となったとされる点は、彼が単なる伝説上の人物ではなく、その地の起源に関わる存在として認識されていたことを示唆しています。古代ギリシアにおいて、都市名や地名が特定の英雄や神にちなんで名づけられることは一般的であり、これはその地の歴史や文化的なアイデンティティを形成する上で重要な意味を持っていました。カリュドーンの場合も、彼の名が都市名となることで、アイトーリア地方の起源神話において中心的な役割を担っていたことがうかがえます。

彼の娘たちのその後の運命も、アイトーリア地方の主要な家系と結びついています。娘のエピカステーは、アゲーノールという人物の妻となりました。このアゲーノールとの間には、ポルターオーンとデーモニーケーという子らが生まれました。ポルターオーンは後にオイネウスの父となり、メレアグロスなど多くの英雄を輩出するカリュドーン王家の祖となります。

もう一人の娘、プロートゲネイアは、強力な神である軍神アレースとの間に子をもうけました。その子はオクシュロスという名で知られています。このように、カリュドーンの血筋は、人間界の支配的な家系だけでなく、オリュンポスの神々とさえ繋がりを持っており、彼の系譜が神話世界の中でいかに広がりと重要性を持っていたかが示されています。

総じて、カリュドーンはアイトーリア地方の起源、地理、そして主要な王家の系譜と深く結びついた人物です。彼の名前が都市となり、その娘たちが後の英雄たちの祖となる系譜を紡いだことは、彼がアイトーリア地方の神話伝承において中心的な位置を占める存在であったことを物語っています。彼の物語は、古代ギリシアにおける地域的な神話が、どのように系譜や地名、そして有名な物語と関連づけられていたかを示す好例と言えるでしょう。

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