アミュターオーン

アミュターオーン（古代ギリシア語: Ἀμυθάων、長母音を省略してアミュタオンとも）は、ギリシア神話に登場する重要な人物の一人です。彼はテッサリアー地方の支配者であったクレーテウスと、エーリス地方の王サルモーネウスの娘テューローとの間に生まれました。アイソーン、ペレースとは同腹の兄弟にあたりますが、母親テューローが河神エーニペウス（あるいはポセイドーン）との間にもうけたペリアースとネーレウスは、彼にとって異父兄弟にあたります。

アミュターオーンは、ペレースの娘エイドメネーと結婚したと一般に伝えられていますが、アバースの娘エイドメネーや、アグライアを妻とする説も存在します。彼の子供たちの中では、息子たちが特に知られています。長男はビアース、次男はメラムプースとされています。娘としては、アイオリアーとペリメーレーという名前が伝わっています。

息子メラムプースは、後に優れた予言者として名を馳せました。彼は鳥の言葉を理解する能力を持ち、様々な神託や秘密を明らかにすることで、神話の世界において重要な役割を果たします。このメラムプースを祖とする家系からは、代々優れた予言者が輩出されたと伝えられています。

アミュターオーン自身についても、いくつかの重要な伝承があります。旅行家として知られるパウサニアスは、その著書『ギリシア記』の中で、神話時代のオリュンピア競技祭の開催者として、ヘーラクレースやペロプスといった英雄たちと共にアミュターオーンの名前を挙げています。これは、彼が単なる系譜上の人物ではなく、古代ギリシア世界の根幹に関わる出来事に深く関与していた可能性を示唆しています。

また、紀元1世紀頃の歴史家ダマスコスのニコラーオスは、アミュターオーンの子孫が比類なき知識を持つことに言及しています。彼は、古来より予言においてアミュターオーンの家系に並ぶ者がないとされていたことを述べ、さらに詩人ヘーシオドスの詩を引用しています。その詩によると、ゼウスは英雄たちにそれぞれ特別な才能を授けました。アイアコスには武勇、アミュターオーンには知識、そしてアトレウスには富が与えられたと詠われているのです。この伝承は、アミュターオーンが神々によって知識や智慧といった側面と結びつけられていたことを示しています。

娘たちについても、その後の系譜において重要な役割を果たしています。娘のアイオリアーは、カリュドーンと結婚しました。もう一人の娘であるペリメーレーは、ラピテース族のアンティオーン、あるいはプレギュアースと結婚し、ミノタウロス伝説とも関連の深いテッサリアーの王イクシーオーンの母親となりました。

アミュターオーンは、その出自や兄弟との関係性、そして特に予言者メラムプースの父として、ギリシア神話の複雑な系譜において重要な結節点となっています。また、オリュンピア競技祭への関与や、知識・智慧を司る家系の祖とされる伝承は、彼が単なる血筋の繋がり以上の意味を持つ人物として認識されていたことを物語っています。彼の物語は、『ギリシア神話』を始め、『神代地誌』、『ギリシア記』、そして『ヘシオドス 全作品』といった古代の文献に記されており、現代の研究者によって再構成されています。

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