カルテット・アマービレ

カルテット・アマービレ（Quartet Amabile）は、日本を代表する弦楽四重奏団の一つです。桐朋学園大学で出会ったメンバーを中心に結成され、国内外で高い評価を得ています。特に、2016年のミュンヘン国際音楽コンクールでの入賞は、彼らの名を広く知らしめる大きなきっかけとなりました。

アンサンブルの起源は、2010年に桐朋学園の学生によって結成された「ローゼ弦楽四重奏団」に遡ります。その後メンバー変更を経て、2013年には「リュミエール・クァルテット」として活動。テレビマンユニオン音楽事業部の「プロジェクトQ」に参加し、ギュンター・ピヒラーら著名な指導者から多くを学びました。この育成プログラムを通じて、メンバーは室内楽の基礎を固めていきました。

転機が訪れたのは、東京クァルテットの磯村和英氏からの助言でした。桐朋学園は室内楽が盛んな学校であり、磯村氏から世界的な舞台であるミュンヘン国際音楽コンクールへの挑戦を勧められたことが、弦楽四重奏に本格的に取り組む決意へと繋がります。磯村氏の熱心な指導のもと、コンクールに向けた1年間で9曲のレパートリーを精力的に準備し、アンサンブルの芸術性を磨き上げました。磯村氏はまた、フランス語の「リュミエール（光）」よりも強い名前を、との思いから、イタリア語で「愛らしく」を意味する「アマービレ」と命名。これがカルテット・アマービレの始まりです。

2016年8月、カルテット・アマービレは世界有数の難関であるミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門に挑みました。過酷な日程の中で行われた本選で、彼らは見事第3位を獲得。さらに、コンクール委嘱作品の優れた解釈に対して贈られる特別賞も受賞し、現代作品への深い洞察力も評価されました。本選最終日には体力的、精神的に極限に近い状況だったこと、演奏中にアクシデントに見舞われながらも集中力を保ったことなど、困難を乗り越えての栄誉でした。

Münchenでの成果は、その後の活動に弾みをつけることになります。同年にはルーマニア国際音楽コンクール、横浜国際音楽コンクールでもそれぞれ最高位を獲得。2018年の宗次ホール弦楽四重奏コンクールでは第1位と聴衆賞を同時受賞。2019年にはニューヨークで開催されたヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディションで第1位に輝き、その実力を世界に示しました。国内でも、宮崎国際音楽祭や霧島国際音楽祭に継続的に出演し、マルタ・アルゲリッチやダン・タイ・ソンといった巨匠たちとの共演も経験。複数年にわたり松尾学術振興財団の助成を受けるなど、将来を嘱望される存在として認められています。

カルテット・アマービレの音楽性は、一体感あふれる響きと、細部まで緻密に練り上げられた表現にあります。初期からメンバー間の音が自然に融合する稀有な才能を持っていましたが、彼らはそれに満足せず、「本当にこれで良いのか」と常に問い直し、より自然で深みのあるフレージングを追求してきました。音色の「1ミリ単位」の調整や、4人それぞれの異なる解釈を丁寧にすり合わせる作業を通して、アンサンブルはさらに進化しています。また、ミュンヘンでの特別賞を機に現代音楽への取り組みを深め、藤倉大氏の弦楽四重奏曲第3番「アクエリアス」の世界初演を行うなど、既存の枠にとらわれない挑戦を続けています。

現在の主要メンバーは以下の通りです。

- 第1ヴァイオリン：篠原悠那 2024年より日本センチュリー交響楽団客員コンサートマスター。霧島国際音楽祭受賞、シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティスト、岩城宏之音楽賞。『四月は君の嘘』モデルアーティスト。
- 第2ヴァイオリン：北田千尋 2024年より広島交響楽団コンサートマスター。広島市長・県教育委員会からの賞、ミュージック・アカデミーinみやざき奨励賞。
- ヴィオラ：中恵菜 Music Dialogueアーティスト、シャネル・ピグマリオン・デイズ室内楽シリーズ参加、上原ひろみザ・ピアノ・クインテットメンバー。元新日本フィル首席ヴィオラ奏者。
- チェロ：笹沼樹 2023年より東京交響楽団客演首席チェロ奏者。霧島国際音楽祭受賞、天覧公演経験、シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティスト、Music Dialogueアーティスト、齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。

メンバーそれぞれがソリストや他のアンサンブル、オーケストラでも活躍しており、その個々の経験がカルテットの音楽に豊かさをもたらしています。彼らは宗次コレクションより貸与された貴重な名器を使用しており、その響きも高く評価されています。

これまでに、「Music for Strings」や「アクエリアス」、「未来に伝える三善晃の世界」といったアルバムをリリースし、音源としてもその演奏を届けています。また、「クラシック倶楽部」や「芸能人格付けチェック」、「リサイタル・パッシオ」など、様々なメディアに出演し、クラシック音楽の魅力を広く伝えています。

桐朋学園での偶然の出会いから始まり、世界的な舞台での成功を経て、カルテット・アマービレは日本の室内楽シーンにおいて欠かせない存在となりました。常に音楽と真摯に向き合い、進化を続ける彼らの今後の活動から目が離せません。

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