カルネアデスの舟板 (松本清張)

カルネアデスの舟板

松本清張による短編小説『カルネアデスの舟板』は、1957年に発表され、その後『詐者の舟板』として短編集に収録されました。物語は、戦後の日本を舞台に、歴史教育と個人の欲望、そして政治的な背景に触れながら展開されます。

登場人物

主な登場人物は、歴史科の教授・玖村武二です。彼は進歩的な唯物史観を展開し、日教組からの支持を受けていた一方で、裕福な生活を手に入れていました。彼の恩師である大鶴恵之輔は、戦時中の国家的歴史観に基づく講義を行ったために大学を追放され、その再起を望んでいます。

あらすじ

玖村は講演旅行の際に恩師を訪ねることを決意します。そこで彼は、大鶴から大学復帰のための支援を求められます。大鶴の卑屈な姿勢に触発された玖村は、快諾します。大鶴が復帰すると、進歩的な立場に急速に変わっていく一方で、玖村は彼を冷静に観察し、時には嗤う態度を見せます。

しかし、大鶴が成功し始めると、玖村は次第に彼との関係が厄介になってしまい、大きなストレスを感じます。時代が移り変わり、文部省が左翼的な教科書を不合格としていく中、玖村は状況の変化に直面し、自身も右翼に転向しようと決意しますが、その前に大鶴が急速な変化を示します。玖村は、彼を追い落とす策略を巡らせることになります。

背景と印象

松本清張はこの作品を通じて、教科書や歴史教育が持つ影響力と、学者が置かれる複雑な立場に光を当てています。本作は、刑法上の緊急避難の概念から着想を得たことも著者自身からの一つの視点です。また、作品タイトルに関する悩みを示唆する発言も、文学的な深みを与えています。

テレビドラマ化

『カルネアデスの舟板』は、1962年と1968年にテレビドラマが制作されています。1962年版はNHKで放映され、小山源喜がキャストに含まれました。一方、1968年の版は「黒い罠」として日本テレビで放送され、松村達雄や中村早苗が登場しました。

結論

この短編小説は、教科書の執筆と歴史観の競争、また著者自身の歴史観に対する考察が織り交ぜられた作品であり、多くの読者に深く浸透しています。清張の作品は、ただの物語を超えて、日本の社会や政治の背景を映し出す鏡のような役割を果たすのです。

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