カルパイン

カルパインの概要

カルパイン（calpain）はEC 3.4.22.52、EC 3.4.22.53に分類されるカルシウム依存的な非リソソーム型システインプロテアーゼであり、さまざまな生物種で普遍的に見られるタンパク質です。この酵素はMEROPSデータベースでclan CAのfamily C2に位置づけられており、カルパインプロテアーゼ、調節サブユニットであるCAPNS（CAPN4）、そして内因性の阻害因子カルパスタチンからなる複合体として機能します。

発見の歴史

カルパインの発見は1964年にさかのぼり、ラットの脳において中性条件下でのカルシウム依存的なタンパク質分解活性が最初に報告されました。この活性はリソソームには依存せず、中性pHでの最適活性が特徴です。このことから、カルパインは主に調節機能を担うプロテアーゼと位置づけられています。名称は、カルシウムを示す接頭辞「cal-」と、システインプロテアーゼを表す接尾辞「-pain」から成り立っています。後に、μ-calpainとm-calpain（またはcalpain I、II）という二つの主要なアイソフォームが特定され、それぞれ異なるカルシウム濃度で活性化されることが明らかにされました。

切断特異性

カルパインは特定のアミノ酸配列を認識するのではなく、基質の三次構造に基づく特異的切断が行われます。特に注目されるのはP2部位やP1部位における疎水的アミノ酸の存在で、これが切断特異性に寄与しています。

カルパインファミリーの多様性

ヒトゲノムプロジェクトにより、ヒトには12以上のカルパインアイソフォームが存在することが判明しました。最初に解明されたm-カルパインはMEROPSデータベースのC2ファミリーに分類されています。

生理的機能

カルパインの具体的な生理的機能については未解明な部分が多いですが、細胞の運動性や細胞周期、神経細胞の長期増強、筋細胞の融合などに関与していることが示されています。カルパインは、短時間のカルシウム流入によって活性化され、ターゲットタンパク質の特異的分解を通じてシグナルを伝達する役割を果たします。また、血液凝固過程や記憶にも関わることが報告されています。

臨床における重要性

カルパインの機能的な多様性は、さまざまな病理的状態の発症にかかわっていると考えられています。特に、カルパイン3が2A型肢帯型筋ジストロフィーの原因遺伝子であることなど、多くの遺伝疾患やがんとの関連が示されています。過剰なカルパインの活性化は、アルツハイマー病や心筋虚血などの疾患に関与することが知られています。また、カルパインは細胞損傷の修復過程にも関与する可能性があります。

治療薬としての可能性

カルパインの活性を調節することができれば、さまざまな病態に対する治療法の開発に繋がるかもしれません。現在、いくつかのカルパイン阻害剤が神経保護効果を示すことが確認されており、今後の研究が期待されます。カルパインの研究は、治療の新たな道を開く可能性があります。

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