カルボキシペプチダーゼB

カルボキシペプチダーゼB（Carboxypeptidase B）は、EC 3.4.17.2という酵素委員会番号を持つ加水分解酵素（ヒドロラーゼ）の一種です。特に、ペプチド結合を加水分解するペプチダーゼに分類され、その中でもタンパク質やペプチドのカルボキシ末端からアミノ酸残基を一つずつ切り離すカルボキシペプチダーゼファミリーに属します。この酵素の大きな特徴は、作用するアミノ酸の種類に高い特異性を持つ点です。カルボキシペプチダーゼAが中性または疎水性のアミノ酸を優先的に認識するのに対し、カルボキシペプチダーゼBは、アルギニンやリシンといった正の電荷を持つ塩基性アミノ酸を特に好んで標的とします。

生体内、特に血清中に存在するカルボキシペプチダーゼBは、様々な生理活性ペプチドの代謝や活性調節に重要な役割を果たしています。その代表的な機能の一つとして、補体系の一部であるC5aタンパク質の代謝が挙げられます。C5aは、強力なアナフィラトキシン（炎症反応を強く誘導する分子）として知られており、免疫応答や炎症プロセスにおいて中心的な役割を担います。カルボキシペプチダーゼBは、このC5aのカルボキシ末端に位置するアルギニン残基を迅速に切断する働きを持ちます。この修飾によって生成される分子はC5a des-Argと呼ばれ、元のC5aに比べてアナフィラトキシンとしての活性は低下しますが、依然として炎症応答に関与することが知られています。

C5aからC5a des-Argへの変換は、炎症反応の強度を調節する上で重要なステップと考えられています。カルボキシペプチダーゼBによるこの代謝経路は、過剰な炎症反応を防ぎ、生体の恒常性を維持するのに寄与していると考えられます。したがって、カルボキシペプチダーゼBの活性異常は、炎症性疾患や免疫関連の病態と関連する可能性が示唆されています。

この酵素に関する情報は、生化学や分子生物学の研究において広く利用されています。例えば、MEROPSオンラインデータベース（M14.003）は、プロテアーゼ（ペプチダーゼ）に関する包括的な情報を提供する専門データベースであり、カルボキシペプチダーゼBの分類、構造、機能、関連研究などが詳細に収載されています。また、医学や生命科学分野の標準的な統制語彙集であるMeSH（Medical Subject Headings）にも「Carboxypeptidase B」という項目が登録されており、関連文献の検索や情報の整理に役立てられています。

カルボキシペプチダーゼBの研究は、その基質特異性や作用機序の解明、さらには炎症関連疾患の治療標的としての可能性など、様々な側面から進められています。酵素阻害剤の開発や、遺伝子レベルでの機能解析なども行われており、生命現象におけるこの酵素の役割の全容解明に向けた研究が進められています。その厳密な基質認識機構と生理機能の理解は、基礎研究だけでなく、応用研究においても非常に重要であると言えます。

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