リシン

リシンとは

リシン（lysine）は、α-アミノ酸の一種であり、側鎖に4-アミノブチル基を持つのが特徴です。リジンと表記されたり、そう音読されることもあります。タンパク質を構成するアミノ酸であり、体内では合成できない必須アミノ酸に分類されます。略号としてはLysまたはKが用いられます。側鎖にアミノ基を持つため、塩基性アミノ酸としても知られています。また、リシンはクエン酸回路に取り込まれてエネルギーを生成する、ケト原性アミノ酸でもあります。

栄養学におけるリシン

リシンは必須アミノ酸であるにも関わらず、植物性タンパク質には含有量が少ないという特徴があります。そのため、動物性タンパク質の摂取が少ない地域では、栄養学上大きな問題となることがあります。特に、米、小麦、トウモロコシなどの主要な穀物にはリシンが少ないため、リシンを豊富に含む副食（肉、魚、乳製品、豆類、そば粉など）を摂取する必要があります。また、サプリメントとしても利用されており、ヘルペスの予防にも効果があると言われています。

WHO（世界保健機関）は、成人のリシン推奨摂取量を1日あたり2.1グラムと定めています。穀物にはあまり含まれていませんが、豆類には豊富に含まれています。その他、肉、魚、乳製品にも多く含まれています。リシンを多く含む植物としては、以下のものがあります。

バッファロー・ゴーアド（ウリ科）：種子に10,130–33,000 ppm
クレソン：1,340–26,800 ppm
ダイズ：種子に24,290–26,560 ppm
イナゴマメ：種子に26,320 ppm
インゲンマメ：芽に2,390–25,700 ppm
モリンガ：芽に5,370–25,165 ppm
レンズマメ：芽に27,120–23,735 ppm、種子に19,570–22,035 ppm
シカクマメ：種子に21,360–23,304 ppm
アカザ：種子に3,540–22,550 ppm
ルピナス：種子に19,330–21,585 ppm
キャラウェイ：種子に16,200–20,700 ppm
ホウレンソウ：1,740–20,664 ppm

生化学におけるリシン

リシンは、タンパク質分子に対してメチル化やアセチル化といった翻訳後修飾を受けることがあります。また、コラーゲンにはリシンの誘導体であるヒドロキシリシンが含まれています。さらに、細胞から分泌されるタンパク質においては、小胞体やゴルジ体でのリシン残基のO-グリコシル化が特定のタンパク質を識別するのに使われます。

リシンの代謝

リシンには複数の代謝経路が存在しますが、哺乳類では主に肝臓のミトコンドリア内で行われるサッカロピンを中間体とする経路が中心です。この経路は、植物、動物、細菌でも報告されています。リシンは、リシン-ケトグルタル酸レダクターゼ/サッカロピンデヒドロゲナーゼ（LKR/SDH）とα-アミノアジピン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ（AASADH）という2つの酵素によって触媒される3段階の反応を経て、α-アミノアジピン酸に変換されます。生成されたα-アミノアジピン酸は、さらに代謝されて最終的にアセチルCoAやアセト酢酸へと分解されます。

植物においては、サッカロピンを経由する代謝経路の他に、カダベリンを経由する経路、ピペコリン酸を経由する経路の3つが報告されています。一部のマメ科植物では、リシン脱炭酸酵素の働きによってリシンからカダベリンを生成し、これをキノリジジンアルカロイドの生合成に利用します。また、ピペコリン酸を経由する経路では、リシンがALD1と呼ばれるタンパク質によってα-アミノ基転移を受け、Δ1-piperideine-2-carboxylateを経てピペコリン酸になります。この経路は、植物が微生物病原体の攻撃を受けると活性化し、植物の免疫において重要な役割を果たします。

さらに、一部の細菌では、リシンがカダベリンを経由する経路で代謝されることが報告されています。

リシンの生合成

リシンの生合成は、アスパラギン酸から始まり、β-アスパルチルリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒド、ジアミノピメリン酸を経て合成されます。カビ類においては、α-ジアミノピメリン酸を経由する経路が利用されます。

参考文献

リシン（リジン） - 素材情報データベース＜有効性情報＞（国立健康・栄養研究所）

関連項目

アルギニン
* オルニチン

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