カルミデス

プラトンの『カルミデス』：節制とは何か？

『カルミデス』は、プラトンの初期対話篇の一つであり、「節制について」を副題に持つ作品です。紀元前432年、ポティダイアの戦いからアテナイへ帰還したソクラテスが、美少年カルミデスと出会い、彼を相手に「節制」の定義を探求する物語が展開されます。

登場人物と舞台設定

主な登場人物は、37歳頃のソクラテス、15歳頃の美少年カルミデス、28歳頃のクリティアス、そしてソクラテスの旧友カイレポンです。物語は、アクロポリス南のバシレ神殿正面にあるタウレアスの体育場を舞台に展開されます。ソクラテスは、戦場から帰還した翌日、この体育場で友人たちと出会い、クリティアスからカルミデスの紹介を受けます。

「節制」をめぐる問答劇

ソクラテスは、カルミデスの頭痛を口実に、彼と「節制」についての問答を始めます。カルミデスは、最初は「静けさ」や「恥を知る心」といった定義を提示しますが、ソクラテスの鋭い反論によって、それらの定義は次々と否定されていきます。

その後、クリティアスも問答に加わり、「自分のことだけをすること」「美しくて利益になるものだけを作ること」「自分自身を知ること」といった定義が提示されますが、ソクラテスはこれらの定義にも、様々な矛盾点を指摘し、議論は行き詰まりをみせます。

特に「自分自身を知ること」という定義に関しては、ソクラテスは「どのような美しい仕事を我々にもたらしてくれるのか」と問いかけ、具体的な技術知とは異なる「節制」の性質を探求します。議論は、「知の知」と「無知の知」という概念にまで及んでいきますが、最終的には、「節制」の明確な定義を導き出すことなく、アポリア（行き詰まり）に終わります。

アポリアと「善悪についての知」

『カルミデス』は、プラトンの初期対話篇に特徴的な「アポリア的対話篇」です。結論を導き出すのではなく、議論の過程を通して、問題の本質を深く探求することを目的としています。

物語の終盤では、ソクラテスは単に知的に生きるだけでは幸福とは限らないことを示唆し、「善悪についての知」こそが幸福に繋がる重要な要素であると指摘します。「節制」は、この「善悪についての知」と不可分な関係にあることが暗示されます。

『カルミデス』の意義

『カルミデス』は、「節制」という概念を巡る問答劇を通じて、ソクラテスの哲学的な思考方法や、古代ギリシアにおける「節制」の理解を垣間見せてくれます。アポリアに終わる議論は、哲学的な探求の難しさ、そしてその継続的な重要性を示唆しています。また、「善悪についての知」の重要性を示すことで、プラトンの後の哲学体系への伏線ともなっていると言えるでしょう。

関連作品

「節制」や関連する概念について深く考察されているプラトンの他の作品としては、『ゴルギアス』『国家』『パイドロス』『政治家』などが挙げられます。これらの作品と比較することで、『カルミデス』の理解をより深めることが可能です。特に、『国家』では、「自分のことだけをすること」という考え方が「正義」の定義と関連付けられており、興味深い対比が見て取れます。

結論

『カルミデス』は、ソクラテスの問答術を体感できる、魅力的な対話篇です。難解な部分もありますが、丁寧に読み進めることで、プラトンの哲学への理解を深めることができるでしょう。 美少年カルミデスの魅力と、ソクラテスの鋭い論理展開を堪能しながら、古代ギリシャの知の探求に浸ってみてください。

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