ハッラーン

ハッラーン：古代メソポタミアの要衝

ハッラーン、またはカルラエとして知られる古代都市は、現在のトルコ南東部、シャンルウルファ県に位置します。古代メソポタミア北部およびシリア北部の要衝として、商業、文化、政治、そして宗教の中心地として繁栄しました。現在では貴重な考古遺跡として、その歴史を物語っています。

概要

ハッラーンは、古代メソポタミア文明において重要な役割を果たしました。特に、月の神シンを祀る祭儀の中心地として知られ、バビロニア時代からローマ時代にかけてその崇拝が続きました。また、古代ローマ時代には「カルラエ」と呼ばれ、その遺跡は現在も残っています。ハッラーンは、ローマ時代からサービア教徒、イスラム教、十字軍の時代まで存続し、イスラム世界の学問の中心としても栄えました。しかし、モンゴル帝国の侵攻によって廃墟となり、その後再建されることはありませんでした。

歴史

古代のハッラーン

ハッラーンは、トルコとシリアの国境に近い場所に位置し、古代にはエデッサとして知られたシャンルウルファから南東に約44kmの場所にあります。古代メソポタミア文明の都市としての最盛期には、ハッラーンは南のダマスカスと、ニネヴェとカルケミシュを結ぶ道が交わる地点に位置し、戦略的に非常に重要な地でした。また、ユーフラテス川とその支流であるバリフ川の流域に位置していたため、肥沃な土地と豊かな水に恵まれ、早くから農耕が発展しました。

旧約聖書にもその名が登場し、イスラエルの始祖アブラハムが一時的に住んでいた地とされています。アブラハムの父テラはハランで亡くなり、アブラハムの一家は後にカナンの地へ旅立ちました。この物語から、中途半端な信仰に留まる人々を「ハラン信者」と呼ぶことがあります。

アッ[[シリア]]の粘土板文書には、ハランは「ハラヌ」の名で頻繁に登場します。紀元前1100年頃のティグラト・ピレセル1世の時代から記録があり、ヒッタイトのシュッピルリウマ1世はハラン付近を支配していたミタンニ王国を破りました。また、ハランは紀元前763年に略奪されましたが、新アッ[[シリア]]の帝王サルゴン2世によって復興しました。

紀元前612年、アッ[[シリア]]の首都ニネヴェが新バビロニアとメディアによって陥落すると、ハッラーンはアッ[[シリア]]の亡命政権の首都となりました。しかし、紀元前608年にアッ[[シリア]]はハランでも敗北し、滅亡しました。その後、ハランは月の神シンの神殿が何度も再建され、ローマ時代の歴史家ヘロディアヌスもこの神殿について言及しています。

メディア、ペルシャ、ギリシャ、ローマ

新アッ[[シリア]]崩壊後、ハランはアッシュール・ウバリト2世の拠点となりましたが、紀元前609年に新バビロニアによって征服されました。その後、ハランはメディア王国、アケメネス朝ペルシャの支配を経て、紀元前331年にはアレクサンドロス大王によって征服されました。アレクサンドロスの死後、ハランは後継者たちの争奪戦に巻き込まれ、最終的にはセレウコス朝の支配下となりました。

オスロエネ王国

パルティアの勢力が拡大すると、ハランは独立状態となり、アラブ人のアブガル朝がオスロエネ王国を建国しました。この時期、ハランはローマでは「カルラエ」として知られ、紀元前53年にはローマとパルティアの間で「カルラエの戦い」が行われました。この戦いでローマ軍はパルティア軍に大敗し、ローマの将軍クラッススは戦死しました。オスロエネ王国時代には、ハランはキリスト教を早くから受け入れ、教会が建設されました。しかし、多くの市民は古代からの月神や星辰への信仰を続けていました。

ローマ帝国とサーサーン朝

オスロエネ王国はローマの属国となり、後にローマ帝国に吸収されました。その後、ハランはサーサーン朝の支配下となりました。

イスラム時代のハッラーン

651年にアラブ人がサーサーン朝を滅ぼし、イスラム帝国を打ち立てると、ハランはイスラム世界の支配下となりました。ウマイヤ朝の時代には、ハランはカリフの座所となりました。その後、ハランの住民は「サービア教徒」を自称し、独自の信仰を育みました。ハランは古代ギリシャの天文学、哲学、自然科学、医学の文献を翻訳する重要な中心地となり、アラブ世界に古代の知識を伝えました。しかし、11世紀にはムスリム民兵組織によってサービア教の神殿やコミュニティが破壊され、サービア教徒は離散しました。

十字軍の襲来

11世紀末には十字軍が中東に侵攻し、ハランは十字軍とムスリム勢力との間で激戦地となりました。1104年には「ハッラーンの戦い」が起こり、十字軍は敗北しました。

アイユーブ朝とモンゴルの襲来

12世紀には、ハランはアイユーブ朝の支配下となりました。しかし、1250年代に入るとモンゴル帝国の侵攻によってハランは完全に破壊され、以後再建されることはありませんでした。

現在のハッラーン

現在のハッラーンは、日干しレンガで造られたドーム屋根の「ビーハイブ・ハウス」で有名です。この住宅は涼しく過ごせるように設計されており、3000年以上基本的な設計が変わっていないとされています。遺跡には古代都市の城壁や要塞、中世の大学の一部が残っています。住民の多くはアラブ系で、遺跡の観光客を相手に商売をしています。ハッラーン平原では、灌漑工事により農業が再開されています。

旧約聖書のハラン

ハランは旧約聖書にも登場し、アブラハムがカナンの地へ移る前に住んでいた地とされています。創世記には、アブラハムの父テラがハランで亡くなり、アブラハムがハランを離れてカナンへ向かったと記されています。

まとめ

ハッラーンは、古代から中世にかけて様々な民族や文化が交錯した歴史的な都市でした。その遺跡は、過去の栄光を今に伝え、訪れる人々に古代の歴史を垣間見させてくれます。

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