カンガルー装甲兵員輸送車

カンガルー装甲兵員輸送車：戦場の創意工夫と継承

第二次世界大戦中、イギリス軍とその連邦諸国は、機械化歩兵の移動手段として大きな課題を抱えていました。既存のユニバーサルキャリアやM3ハーフトラックは、戦車部隊への随伴や防御力において不十分だったのです。そこで登場したのが、戦車の車体を流用した装甲兵員輸送車、通称「カンガルー」です。

誕生の背景：戦場のニーズとリソースの有効活用

戦況の激化に伴い、歩兵の戦車部隊への随伴はますます重要性を増していました。しかし、既存の装甲兵員輸送車は、戦車の機動性を追従するには至らず、防御力も不足していました。限られた資源を最大限に活用するため、旧式化したり、砲塔を失った戦車の車体に注目が集まりました。砲塔を取り外し、その空いたスペースに兵員室を設けることで、比較的容易に装甲兵員輸送車が作れると考えたのです。この発想が、カンガルーの誕生へと繋がりました。

カンガルーの構造：簡素ながらも堅牢な設計

カンガルーの構造はいたってシンプルです。元となった戦車や自走砲から砲塔や主砲を取り払い、車内に兵員用の簡易座席を設置しただけでした。兵員の乗降は、元砲塔があった開口部や車体後部から行われ、専用のハッチなどは装備されていませんでした。そのため、上面は完全に開放されており、航空機からの攻撃などには無防備でした。車体側面へのハッチ増設などの改良もほとんど行われず、乗降は決して容易ではありませんでした。戦車から転用されたカンガルーの場合、兵士は砲塔跡から飛び降りる必要があったほどです。

このように、カンガルーはあくまで暫定的な車両であり、実用面での欠点も少なくありませんでした。しかし、戦車の装甲を継承しているため、防御力はハーフトラックなどに比べて格段に高く、戦車部隊への随伴も容易でした。また、エンジンやトランスミッションの共通化による整備性の高さも大きなメリットでした。

歴史：様々な戦車からの派生と実戦投入

最初のカンガルーは、1944年6月にカナダ軍によって開発されました。余剰となったM7自走砲を改造し、主砲を取り外して兵員室を設置しました。この際に「カンガルー」という愛称が付けられました。その後、ラム巡航戦車やチャーチル歩兵戦車をベースにした派生型も開発され、それぞれ「ラム・カンガルー」「チャーチル・カンガルー」と呼ばれました。M4中戦車やグリズリー巡航戦車から改造された「シャーマン・カンガルー」なども存在し、戦後にはカナダ軍がM4A2E8中戦車を改造した例も見られます。また、M3軽戦車やM5軽戦車を改造した車両も製作され、兵員輸送の他に砲牽引車としても使用されました。

これらのカンガルーは、1944年8月にはカナダ軍第1装甲兵員輸送中隊に配備され、ノルマンディー上陸作戦やカーン、ファレーズでの戦闘などに参加しました。

戦後と現代：カンガルーの遺産

第二次世界大戦後、カンガルーは装甲兵員輸送車としては退役しましたが、機甲部隊や自走砲部隊において支援車両として少数が使用されました。しかし、戦車の車体を流用して装甲兵員輸送車を作るという発想は、現代においても息づいています。冷戦終結後、低強度紛争の増加や携帯式対戦車兵器の普及により、従来型の装甲兵員輸送車では防御力が不足すると認識されるようになりました。そこで、イスラエルのアチザリットやナグマホン、ロシアのBTR-Tなど、戦車の車体を流用した重装甲兵員輸送車が再び注目を集めるようになりました。シリア内戦など、近年の紛争でも、破壊された戦車を改造した簡易的な装甲兵員輸送車が使用されている事例が見られます。

カンガルーは、戦時下の資源制約の中で生まれた、創意工夫に満ちた車両でした。その簡素ながらも効果的な設計は、現代の紛争においても、戦車の車体再利用という形でその遺産を継承しています。

ゲームでの登場

カンガルーは、『コール オブ デューティ3』や『トータル・タンク・シミュレーター』といったゲームにも登場し、その存在感を示しています。

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