カンツォーナ (メニン)

カンツォーナ (Canzona)

「カンツォーナ」は、アメリカの作曲家ピーター・メニン（Peter Mennin, 1923-1983）によって1951年に書かれた吹奏楽のための楽曲です。彼は交響曲や協奏曲、室内楽曲などで知られていますが、吹奏楽の分野では本作が唯一の作品となっています。

作曲経緯

この楽曲は、1951年にゴールドマン・バンド（Goldman Band）の創設者であるエドウィン・フランコ・ゴールドマン（Edwin Franko Goldman, 1878-1956）からの委嘱により誕生しました。この委嘱は作曲家連盟（League of Composers）を介して行われ、同年中に楽譜が出版されています。特筆すべきは、この一連の委嘱シリーズにおいて、ヴァージル・トムソン（Virgil Thomson, 1896-1989）やウォルター・ピストン（Walter Piston, 1894-1976）、ハワード・ハンソン（Howard Hanson, 1896-1981）といった著名な作曲家たちが、それまでほとんど手がけることのなかった吹奏楽のためのオリジナル作品に初めて取り組んだことです。メニンの「カンツォーナ」も、まさにこの時代の吹奏楽レパートリー拡充という大きな流れの中で生まれました。

楽曲について

楽曲のタイトルである「カンツォーナ」は、16世紀後半から17世紀にかけて、特にジョヴァンニ・ガブリエーリ（Giovanni Gabrieli, c.1555-1612）らヴェネツィア楽派の作曲家たちによって発展した同名の器楽曲形式に由来しています。この古形式カンツォーナの特徴である、異なる楽器グループやセクションを対比させて響かせ合う書法が、本作にも意識的に取り入れられています。

メニンの作曲スタイルは、しばしば対位法を巧みに用いた力強く推進力のあるリズムが特徴とされます。本作も例外ではなく、特に前年に完成された彼の交響曲第5番の終楽章に通じるような、エネルギーに満ちたリズミカルな筆致が見られます。

楽章は単一で、テンポは「アレグロ・デチーゾ（Allegro deciso）」、拍子は4/4拍子です。演奏時間は約5分と比較的短いながらも、密度の高い音楽が展開されます。楽曲の中心となるのは、冒頭近くに提示される最初の主要主題と、中盤で「dolce」（やさしく、甘く）という発想標語と共に現れるもう一つの主題です。これら二つの主題が巧みに組み合わされ、展開されていきます。

また、楽曲全体を通じて特徴的に用いられているのが、三和音を連続させたコラール風の楽想です。特に冒頭に現れるこの響きは印象的で、楽曲の形式的な区切りやセクション間の経過句として繰り返し登場し、構成に統一感を与えています。

位置づけ

本作が作曲された1950年代初頭は、吹奏楽が単なる行進曲や編曲作品の演奏体から、独自の芸術音楽を追求する媒体へと変貌を遂げつつあった重要な過渡期にあたります。ピストンやハンソンといった権威ある作曲家たちがこの分野に参入したことは、吹奏楽の芸術的地位向上に大きく貢献しました。メニンの「カンツォーナ」も、そうした新しい時代の吹奏楽オリジナル作品の一つとして高い評価を受け、現在でも多くのバンドによって重要なレパートリーとして演奏され続けています。その力強いサウンドと巧妙な構成は、現代吹奏楽作品の礎を築いた作品の一つと言えるでしょう。

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