カーリエ博物館

カーリエ博物館：ビザンティン美術の宝庫

カーリエ博物館（Kariye Müzesi）は、トルコのイスタンブール旧市街に位置する、歴史的建造物を活用した博物館です。その起源は、11世紀に東ローマ帝国時代に建てられた正教会の修道院付属教会堂に遡ります。元々は「コーラ修道院付属ソーテール聖堂」という名称でした。この教会堂は、14世紀まで増改築が繰り返され、その後オスマン帝国時代にはモスクとして利用されました。そして、トルコ共和国時代にはその美術的価値が認められ、博物館として公開されるようになりましたが、2020年にはモスクへの再転換が決定されました。

歴史

修道院から教会堂へ

カーリエ博物館の前身であるコーラ修道院は、6世紀から7世紀に設立されたと考えられています。「コーラ」はギリシア語で「田舎」や「郊外」を意味し、その名の通り、コンスタンティノポリスの中心部から離れた場所に位置していました。また、正教会においては「藉身（受肉）の神秘」を象徴する言葉としても用いられています。

現存する聖堂は、12世紀初期にアレクシオス1世コムネノスの子イサキオス・コムネノスによって建設されたものが基礎となっています。身廊、アプス、ヴォールトの一部は当時のまま残っており、直径7メートルのドームは、円蓋式バシリカに近い形式でした。14世紀前期には、政治家であり学者でもあったテオドロス・メトキテスによって大規模な増改築が行われ、現在の複雑な形状となりました。

モスクへの転換と博物館としての再生

オスマン帝国時代には、教会堂はモスク（カーリエ・ジャーミー）に転換されました。この際、内部の装飾は漆喰で塗り込められ、ミフラーブが設置されました。また、ミナレットが追加され、ドームも木造に作り替えられました。しかし、20世紀になるとアメリカのビザンティン研究所によって修復作業が行われ、ビザンティン美術末期の装飾が再び日の目を見ることとなりました。そして、1958年には無宗教の博物館として一般公開されるようになりました。

建築と装飾

カーリエ博物館の建物は、大きく分けてナルテクス（前室）、内陣、そして墓廟礼拝堂（パレクレシオン）の3つの領域に分けられます。内部には6つのドームがあり、特にモザイク画とフレスコ画はビザンティン美術の傑作として高く評価されています。

外ナルテクス

外ナルテクスは、聖堂の玄関にあたる場所です。ここには、ハリストス（キリスト）の生涯が描かれたモザイクが飾られています。例えば、ベツレヘムでのヨセフの夢、ハリストスの降誕、東方の三博士来訪、エジプトへの逃避など、聖書のエピソードが生き生きと表現されています。

内ナルテクス

内ナルテクスには、ハリストスの祖先が描かれた2つのドームがあります。また、生神女（聖母）に関する物語がモザイクで表現されています。特に、入り口上部には『ハリストスと聖堂を捧げるテオドロス・メトキテス』が描かれており、外ナルテクスの入り口と同じく「命あるもののコーラ」との銘があります。

内陣とパレクレシオン

内陣は、装飾の保存状態が完全ではありませんが、『ハリストス』や『聖母子』のモザイクが残っています。また、パレクレシオンには、フレスコ画による装飾が施されており、アプスにある『復活』の場面は、ビザンティン美術の傑作の一つとされています。

文化的意義

カーリエ博物館は、ビザンティン美術の変遷を辿ることができる貴重な場所です。モザイク画やフレスコ画は、当時の人々の信仰心や芸術観を今日に伝えています。イスタンブール歴史地域の一部として、世界遺産にも登録されており、歴史的にも文化的にも重要な遺産となっています。

まとめ

カーリエ博物館は、複雑な歴史と多様な美術様式が融合した場所です。ビザンティン美術に興味がある人だけでなく、歴史や文化に触れたい人にとっても訪れる価値のある場所です。モスクへの再転換という大きな変化を遂げようとしていますが、その美術的価値はこれからも変わらずに輝き続けるでしょう。

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