ミナレット

ミナレット：イスラム教建築を象徴する塔

ミナレットは、モスクやマドラサなどのイスラム教の宗教施設に付属する塔であり、ムスリムへの礼拝呼びかけ（アザーン）を行う場所として知られています。その起源は定かではありませんが、シリア地方のキリスト教教会の鐘楼、沿岸部の灯台、砂漠の目印塔などが起源とする説があります。7世紀には屋根の上からアザーンが行われていましたが、705年にはウマイヤ朝のカリフ、ワリード1世がマディーナ（メディナ）の預言者のモスクを改築し、四隅にミナレットを設置したことが、現存するミナレットの起源といわれています。

ミナレットの歴史的変遷

8世紀から10世紀にかけては、イランからイベリア半島にかけて角柱状のミナレットが多く建設されました。9世紀にはイラクやエジプトで螺旋状のミナレットも登場し、バベルの[[塔]]をモデルとしたとする説もあります。11世紀には円柱状のミナレット、12世紀以降には二基一対のミナレット（ドゥ・ミナール）が流行しました。セルジューク朝で考案されたドゥ・ミナール様式は、イランからインドやアナトリア半島へと広まりました。デリーのクトゥブ・ミナールはその代表例で、円柱状の塔、フリンジ、アラビア語の銘文、ムカルナスなど、イラン建築の影響が強く見られます。

15世紀のオスマン帝国時代には、細く尖った鉛筆型のミナレットが主流となりました。オスマン帝国はイスタンブールの聖ソフィア大聖堂をモスクに転用した後、4本のミナレットを増築しています。イランやトルコなどでは、複数のミナレットを持つモスクが増え、ミナレットの役割はアザーンの場から建築装飾へと変化していきました。

ミナレットの構造と様式

ミナレットは通常、モスクのミフラーブを主軸とする線上に建てられますが、中庭の片隅や門の両脇に建てられることもあります。大モスクのミナレットは高く凝った装飾が施される一方、住宅地や集落のミナレットは低くずんぐりとした造りになっています。地域によって形状も異なり、シリアや北アフリカでは角柱、イラクやイラン、トルコでは円柱のミナレットが多く見られます。エジプトでは長方形の土台に八角形や円柱の塔を重ねた折衷型も存在します。

ミナレットの頂上には円錐状の屋根を乗せるオスマン様式が知られていますが、これは墓塔の屋根からの影響が考えられます。また、オスマン帝国領内では、既存のミナレットの上に鉛筆型のミナレットを増築した例もあります。門の両脇に一対のミナレットを建てるドゥ・ミナール様式は、モスクの入り口を視覚的に強調する効果があります。しかし、時代や地域によって、ドゥ・ミナール様式は廃れ、建物の隅に塔を建てる様式へと変化していきました。ミナレット内部には螺旋階段が設けられており、円柱型のミナレットでは、螺旋階段が塔の強度を高める役割も果たしていたと考えられています。11世紀後半からは、塔の縦方向の境界となるフリンジを付けたミナレットも登場しました。

ミナレットの機能

ミナレットの主要な機能は、1日に5度行われるアザーンを行うことです。他にも、要人の死を知らせるためにも利用されました。サファヴィー朝以降のイランでは、シーア派の国教化に伴い、アザーンはイーワーンの上のゴルダステと呼ばれる小屋で行われるようになり、ミナレットは建築装飾としての役割が強まりました。近代では、マイクとスピーカーを用いたアザーンが一般的になり、ミナレットの建設は不要とする意見も出ています。北アフリカでは、ミナレットは高僧の宿泊場所としても使われたため、「隠遁所」を意味する「サウマアー」とも呼ばれていました。また、一部のミナレットは狼煙台として利用されていたと考えられています。ミナレットは高層建築物であることから、国家の権力の象徴として利用されることもありましたが、逆に民衆の抗議活動の場となることもありました。

代表的なミナレット

マルウィヤ・ミナレット（イラク・サーマッラー）
クトゥブ・ミナール（デリー）
ジャームのミナレット（アフガニスタン・ゴール州）
カラーン・ミナレット（ウズベキスタン・ブハラ）
* 蘇公塔（中国・トルファン）

これらのミナレットは、それぞれ独自の様式と歴史を持ち、イスラム建築の魅力を物語っています。

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