カール・ウィルソン

カール・ウィルソン：ザ・ビーチ・ボーイズの魂と軌跡

カール・ディーン・ウィルソン（1946年12月21日 - 1998年2月6日）。ザ・ビーチ・ボーイズのオリジナルメンバーにして、リードギター、そして魅力的な歌声を武器にバンドを牽引した伝説的ミュージシャンである。兄ブライアン、次兄デニスという音楽一家に生まれ、その才能は幼少期から開花した。

恵まれた体格と「天使の歌声」と形容される美しい声質は、多くのビーチ・ボーイズの名曲に彩りを添えた。彼のリードボーカルを務めた楽曲は枚挙にいとまがない。「グッド・ヴァイブレーション」、「神のみぞ知る」、「ダーリン」、「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」、「ブレイク・アウェイ」、「サーフズ・アップ」など、数々の名曲が彼の歌声によって輝きを増した。その卓越した歌唱力は、評論家からも高く評価され、「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第20位にランクインしている。

ソングライターとしての才能も持ち合わせ、自ら作曲した「ロング・プロミスド・ロード」、「フィール・フロウズ」、「ザ・トレイダー」といった楽曲は、彼の音楽的才能の深さを物語っている。これらの作品は、ザ・ビーチ・ボーイズの音楽的多様性をさらに広げることに貢献した。

1970年代に入ると、兄ブライアンの精神的な問題により、バンド活動は停滞期を迎える。そんな中、カールはバンドの中心人物として、音楽性と運営の両面でバンドを支え、その存在感は増していく。特にヴォーカリストとしての成長は目覚ましく、パワフルな歌唱法を習得し、ブライアンのファルセットを失ったバンドに、新たな魅力をもたらした。その社交的な性格を活かし、多くの外部セッションワークにも参加するようになる。

音楽性の方向性の違いから、1980年後半から1981年にかけては一時ビーチ・ボーイズを離れ、ソロ活動に専念する時期もあった。1982年4月のツアーから復帰すると、翌年にはソロアルバム『ヤングブラッド』を発表した。このアルバムの大部分は、ビーチ・ボーイズ脱退前に録音された楽曲で構成されている。

その後も長きにわたりビーチ・ボーイズを支え続けたカールだったが、1998年、肺がんにより51歳という若さでこの世を去った。彼の死は、バンドに大きな衝撃を与えた。まもなくしてアル・ジャーディンがツアーから離脱を宣言し、事実上、ビーチ・ボーイズは分裂状態に陥った。カールという、バンドの柱石を失ったことが原因であることは想像に難くない。

兄ブライアンは、カールの死後4ヶ月後に発表されたソロアルバム『イマジネーション』に、カールへの追悼曲「Lay Down Burden」を収録。その曲は、兄弟の絆の深さと、カールの死を悼む悲しみを切々と歌い上げている。

楽器演奏においては、フェンダー・ストラトキャスター、フェンダー・ジャガー、リッケンバッカー・360/12、ギブソン・ES-335カスタム、エピフォン・リヴィエラXIIなど、様々なギターを操った。中でも1970年代以降は、ES-335（後にネックをES-355のものに交換）が彼のトレードマークとなった。左利きであったにも関わらず、ギターは全て右利き用のものを使用していたという逸話も残っている。

また、楽曲によっては様々な楽器を演奏し、1968年から1969年のライブやテレビ出演では、デニスがリードボーカルを務める際にはドラムを担当したこともある。さらに「ロング・プロミスド・ロード」「フィール・フロウズ」「オール・ディス・イズ・ザット」のライブ演奏時にはキーボードを、1970年代前半までの「グッド・ヴァイブレーション」のライブではベースを演奏しながら歌っていた。

カール・ウィルソンは、卓越した音楽性と、バンドへの献身的な姿勢、そして温かい人柄で、多くの人々に愛されたミュージシャンであった。彼の功績は、ビーチ・ボーイズの歴史、そして音楽史に永遠に刻まれるだろう。

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