カール・ケレーニイ

カール・ケレーニイ：神話と宗教の探求者

カール・ケレーニイ (1897-1973) は、20世紀を代表する神話学者にして宗教史学者です。ハンガリーに生まれ、古代世界の深遠な魅力に惹きつけられ、その生涯をギリシア神話と古代宗教の研究に捧げました。彼の学問的足跡は、現代の神話研究に多大な影響を与え続けています。

青年期と学問への道

ケレーニイは若い頃から、レオパルディやキーツといった文学作品からインスピレーションを受け、古代世界への関心を深めていきました。ブダペスト大学で古典文献学を専攻し、その後ドイツに留学。ベルリン大学では、ヴィラモーヴィッツ＝メレンドルフら当時の第一人者から薫陶を受けました。しかし、彼は後に伝統的な文献学からの転換を図り、エドゥアルト・ノルデンの影響を受けて宗教学へと関心を移していきます。ドイツ各地の大学で研鑽を積んだ後、ハンガリーへ帰国。ブダペスト大学、ペーチュ大学、セゲド大学で教鞭を執りながら、ギリシアやイタリアへの調査旅行を重ねました。

ユングとの出会い、そしてスイスへ

1929年、ケレーニイは、宗教心理学の巨匠であるカール・グスタフ・ユングと出会います。この出会いは、ケレーニイの研究人生に大きな転機をもたらしました。1943年、ハンガリーの政治情勢の悪化を避けてスイスに移住。ユング研究所の芸術主任研究員となり、ユングとの共同研究やエラノス会議への参加などを通して、独自の研究に没頭します。教職を退いた後も、ヨーロッパ各地の大学で客員教授として教鞭を執り、晩年まで調査旅行を続けました。

トーマス・マンとの深い交流

ケレーニイとトーマス・マンとの交流は、特筆に値します。1933年のケレーニイの講演「不死性とアポロン宗教」の草稿をマンに送ったことがきっかけとなり、1934年から1955年、マンの死まで続く、長年にわたる書簡のやり取りが始まりました。この交流は、第二次世界大戦という大きな時代の変化を挟みながらも、20年以上にも及ぶ深い友情と学問的議論の積み重ねでした。

ケレーニイは、マンの小説『ヨーゼフ』シリーズに、現代人が神話的現実へ回帰する様を見出し、マンを現代における神話の語り手と高く評価しました。一方、マンもケレーニイの祝祭論に共感し、両者の思想の近さを指摘しています。この貴重な書簡集は、『小説と神話』（1945）と『書簡による対話』（1960）として出版され、両者の思想的深淵を垣間見ることができます。

ケレーニイの著作と影響

ケレーニイは、数多くの著作を遺しました。彼の著作は、ギリシア神話や古代宗教を多角的に考察しており、単なる学術書に留まらず、神話の本質への洞察に満ちた、読み応えのあるものとなっています。彼の著作は、日本でも多くの翻訳書が出版され、現代の読者にも広く親しまれています。特に『ギリシアの神話　神々の時代』『ギリシアの神話　英雄の時代』『迷宮と神話』『神話と古代宗教』などは、彼の代表作として知られ、神話研究の入門書としても高く評価されています。これらの著作を通して、ケレーニイは、神話の世界を現代の読者へ鮮やかに伝え、古代世界の深遠な魅力を再発見させてくれています。

ケレーニイの学問的業績は、神話研究のみならず、宗教史、文化史、心理学など、多岐にわたる分野に影響を与え、現在もなお、世界中の研究者や読者から高く評価されています。彼の残した著作は、これからも神話と宗教、そして人間の存在について深く考える人々にとって、貴重な指針となるでしょう。

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