カール・ジャンスキー

カール・グース・ジャンスキー（1905年 - 1950年）は、アメリカ合衆国の物理学者、無線技術者であり、電波を用いて宇宙を観測する「電波天文学」という新たな分野を創設したパイオニアです。彼の歴史的な発見は、全く新しい視点から宇宙を理解する道を開きました。

1905年、オクラホマ準州に生まれたジャンスキーは、ウィスコンシン大学で物理学を学び、1927年に卒業しました。翌1928年、彼はニュージャージー州にあるベル研究所に入所します。ここで彼が携わったのは、主に短波帯の電波に関する研究でした。当時の無線通信における様々なノイズの原因を探るため、彼はユニークなアンテナシステムを設計・設置しました。

ジャンスキーは、あらゆる方向からの電波信号を効率的に捉えるため、回転台の上に波長20.5MHz（周波数約14.6MHz）の電波を捉えるアンテナを据え付けました。この回転可能なアンテナを用いて、彼は数ヶ月にわたり全方向からの電波信号を丹念に記録しました。その観測から、彼は3種類の電波雑音を識別します。一つは近くで発生する雷によるもの、もう一つは遠方で発生した雷によるもの、そして最後に、その正体が全く不明な未知の雑音でした。

この未知の電波雑音の解析に、ジャンスキーは1年以上もの歳月を費やしました。当初、彼はこの信号の強度が約24時間周期で変動していることに気づき、太陽を発生源とするものではないかと推測しました。しかし、数ヶ月間観測を続けるうちに、信号のピークが現れる時刻が少しずつずれていくことに気づきます。詳細な解析の結果、その周期が正確には24時間ではなく、約23時間56分、すなわち恒星時と呼ばれる周期と一致することを発見しました。このことから、彼は信号の発生源が太陽系内ではなく、より遠方の恒星系に由来すると判断しました。

粘り強い観測と分析の結果、ジャンスキーはこの未知の電波源が、地球から見て銀河系の中心方向、具体的にはいて座の方向にあることを突き止めました。1932年に行われたこの発見は、地球外の天体から電波が届いていることを初めて明らかにしたものであり、天文学に「電波」という全く新しい観測手段をもたらしました。これにより、現代天文学の一翼を担う「電波天文学」が、ここに誕生したのです。

ジャンスキーのこの画期的な発見にもかかわらず、彼はその後ベル研究所内で別の研究プロジェクトに異動となり、電波天文学の研究に直接携わる機会は得られませんでした。1950年、彼はわずか44歳という若さで心臓病のためこの世を去りました。しかし、彼の業績は決して忘れられることはありませんでした。現在、電波天文学の分野において電波源の強度を示す基本的な単位は、彼の名にちなんで「ジャンスキー（Jy）」と名付けられています。また、アメリカ国立電波天文台は、将来有望な研究者を育成するための「ジャンスキー・フェローシップ」という博士研究員支援制度を設けています。さらに、小惑星や月のクレーターにも彼の名前が冠されており、2012年からはアメリカの超大型干渉電波望遠鏡群（VLA）の正式名称にも「ジャンスキー」の名が加えられるなど、その功績は現代においても高く評価され、語り継がれています。彼の生涯は短かったものの、残した足跡は極めて大きく、今日の宇宙観測の発展に不可欠な礎を築いた人物として、科学史にその名を刻んでいます。

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