カール・ハーゲンベック

カール・ハーゲンベック（1844年6月10日 - 1913年4月14日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、世界の動物取引と動物展示の分野に大きな足跡を残したドイツの実業家です。ハンブルクで魚商を営む父のもとで育ちましたが、父が副業として行っていた野生動物の取引に幼い頃から触れ、この世界の魅力に取りつかれます。

14歳で父から動物を与えられたことをきっかけに、ハーゲンベックの動物コレクションは急速に拡大していきました。やがて彼は自ら世界各地へ赴き、狩猟家や探検家たちと共にジャングルや極寒の地へと分け入り、珍しい動物たちを捕獲するようになります。その活動範囲は広大で、世界中から集めた動物たちをヨーロッパやアメリカの動物園、さらには有名なP・T・バーナムのサーカスなどに供給することで成功を収めました。

ハーゲンベックは単なる動物の供給者にとどまらず、その動物たちを使った興行師としても才能を発揮しました。1875年からは、自身が収集した動物たちをヨーロッパやアメリカの主要都市で大規模に展示する巡業を開始します。特に彼の訓練した動物たちは評判を呼び、1893年のシカゴ万国博覧会や1904年のセントルイス万国博覧会では、彼のサーカスが最も人気を集めました。彼は大型動物から爬虫類まで、多種多様な動物を見事に調教し、ショーを披露させました。また、動物の交配にも挑戦し、1900年にはメスのライオンとオスのベンガルトラの間に雑種（ライガーと推測される）を誕生させ、高額で取引した記録も残されています。

しかし、ハーゲンベックの興行活動の中で、後世に大きな論争を呼ぶこととなったのが「人間動物園」です。1874年、彼はサモア人やサーミ人（当時の呼称は「ラップランド人」）を「文明に汚されていない」人々として、彼らの生活様式を示すテントや道具、さらにはトナカイなどと共に展示する興行を始めました。1876年には、スーダンから連れてきたヌビア人の展示がヨーロッパで大成功を収め、パリ、ロンドン、ベルリンなどを巡業しました。さらにカナダからは「エスキモー」（イヌイット）を連れてきて自身の動物園で展示するなど、「未開」あるいは「野蛮」と見なされた非ヨーロッパ系の民族を生きたまま見世物にするという、当時の社会情勢や民族学的な関心を背景とした興行を行いました。このハーゲンベックの手法は、パリのジャルダン・ダクリマタシオンで同様の「民族学的展示」が行われるきっかけとなり、その入場者数を飛躍的に増加させるなど、当時の動物園や博覧会に大きな影響を与えました。

一方で、ハーゲンベックは動物展示の方法において革新をもたらしました。彼は動物を狭い檻に入れる従来の方式に疑問を抱き、動物たちがその生息環境に近い自然な景観の中で暮らす姿を見せるという構想を温めていました。そして1907年、ハンブルク近郊のシュテリンゲンに、世界初となる無柵放養式展示を採用した自身の動物園を開設します。これは堀や地形を利用して動物の脱出を防ぎ、観客からは檻が見えないようにすることで、動物が自然に近い状態で過ごしているように見せる画期的な手法でした。このハーゲンベック動物園は個人経営ながらドイツで最も成功した動物園となり、彼の展示方式は現在、世界中の多くの大規模動物園で採用されています。また、1909年から1910年にかけては、ローマ動物園の建設計画においても指導的役割を果たしています。

動物商人、興行師、そして近代動物園のパイオニアとして多岐にわたる活動を行ったハーゲンベックは、1908年には自身の冒険や動物に関する経験を綴った著書『野獣と人間（Beasts and Men）』を出版しています。最期は、彼が深く関わった動物によって突然もたらされました。1913年4月14日、自身の動物園で毒蛇であるブームスラングに咬まれ、その毒によって命を落としました。

カール・ハーゲンベックは、良くも悪くも時代の寵児であり、世界の動物を収集・展示・興行するビジネスを大きく発展させ、近代的な動物園の基礎を築きましたが、同時にその時代に特有の偏見に基づいた人間展示を行った人物としても歴史に名を刻んでいます。

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