ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスの肖像

ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスの肖像

『ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスの肖像』は、フランシスコ・デ・ゴヤが1798年に制作した油彩画であり、現在はマドリードのプラド美術館に展示されています。この作品は、啓蒙時代における重要な政治家かつ哲学者であるホベリャーノスを描いており、その独自の視点で表現された姿勢が印象的です。

ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスという人物

ホベリャーノスは1744年にヒホンで誕生し、サラマンカ大学で法学を学びました。彼は理想主義の政治家および進歩的な経済学者として知られるだけでなく、ディエゴ・ベラスケスやゴヤを称賛する芸術の後援者でもありました。1778年から1794年にかけて、彼はマドリードの王立法律裁判所で重要な職を務め、改革派の活動に貢献しました。しかし、彼の農地改革と自由経済を推進する姿勢がフランス革命との関連で問題視され、ヒホンに追放されることとなります。

1797年には再びマドリードに戻り、法務大臣に就任しますが、イデオロギー的な対立から失脚し、その後はマヨルカ島に投獄される運命をたどりました。彼は最終的に1811年にプエルト・デ・ベガで生涯を閉じましたが、その生涯は多くの困難と政治的な闘争に満ちていました。

作品の解説

ゴヤはホベリャーノスを書き物机の前に横向きに座らせた構図で描いており、彼は優雅な上着を身にまとい、思索にふける姿勢をとっています。その左肘を机に寄せ、鑑賞者に目を向けるホベリャーノスは、右手で自身とゴヤの名前が書かれた紙を持っています。この姿勢は、彼の内面的な世界や政治的信条を根底に持つ独自の思考を反映しています。

肖像画においては公的な人物にはしばしば勲章が与えられますが、ホベリャーノスはそれを身に着けておらず、彼の親しみやすい性格が強調されています。彼の背後に描かれた新古典主義スタイルの机は、美しい装飾が施され、机の上には書類やペンが散らばっており、左奥には知恵の女神ミネルヴァの彫像があり、彼の知性を引き立てています。この彫像は、ホベリャーノスへの庇護を示すものであり、彼が創設した団体の紋章を盾に描いています。

ホベリャーノスの思索する姿勢は、アルブレヒト・デューラーの著名な銅版画『メランコリア I』に由来しており、これがルネサンス以来の創造力豊かな心を象徴しています。また、ゴヤの他の作品、特に《ロス・カプリーチョス》と関連付けることができます。この作品は、知性や理性が自身の信念に対し、どう関わっているかを考えさせる印象を持っています。

来歴

この肖像画は、ホベリャーノスの友人フアン・ホセ・アリアス・デ・サアーベドラに1802年に贈られ、その後サアーベドラの子孫に受け継がれました。1877年にはプラド美術館への売却が試みられましたが、その提案は王立サン・フェルナンド美術アカデミーによって却下され、その後もいくつかの所有者の手を経て1940年に公に流通することになりました。最終的に、スペイン文部省によってプラド美術館に購入されたこの作品は、今も多くの観客に愛されています。

このように、ホベリャーノスの肖像はただの肖像画ではなく、彼の思想や歴史的背景を感じさせる重要な美術作品であり、観る者に深い印象を与え続けています。

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