ガボン航空惨事

ガボン航空惨事：ザンビア代表を襲った悲劇

1993年4月27日、サッカーザンビア代表の選手や関係者を乗せたザンビア空軍の輸送機が、ガボンの首都リーブルヴィルを離陸直後に大西洋へ墜落しました。この事故で、乗員乗客合わせて30名全員が命を落とすという、痛ましい出来事となりました。この惨事は「ザンビアの悲劇」とも呼ばれ、同国に深い悲しみと衝撃を与えました。

事故の背景

ザンビアの政治と経済

1964年に独立したザンビアは、ケネス・カウンダ大統領の下で銅鉱業の国有化を進めました。1960年代後半から1970年代前半にかけては、銅価格の高騰により経済が活況を呈し、年平均10%を超える経済成長を遂げました。この好景気を背景に、カウンダ大統領はサッカー代表チームの強化を指示し、国営鉱山会社からの資金援助によって選手たちの生活は保障されていました。彼らは「KKイレブン」と呼ばれ、国民的な人気を集めていました。

しかし、1970年代後半から銅価格が暴落し、石油危機も重なり、ザンビア経済は停滞。1980年代に入っても状況は改善せず、国民の不満が高まりました。1991年、カウンダ大統領は複数政党制に移行し、大統領選挙でフレデリック・チルバに敗れ退任。チルバ政権は、国営企業の民営化などの経済政策を推進しました。これにより、サッカー協会への資金援助が減少し、代表チームの活動は困難な状況に陥りました。

ザンビア代表の台頭と苦境

ザンビア代表はアフリカの強豪として知られ、1988年のソウルオリンピックでは準々決勝に進出しました。特に、エースストライカーのカルシャ・ブワルヤは、同年にアフリカ年間最優秀選手賞を受賞するなど、世界的な活躍を見せていました。しかし、チルバ政権の経済政策により、国営鉱山会社からの資金援助が打ち切られ、協会は慢性的な資金難に陥りました。遠征費用を捻出するために、老朽化した軍用機を利用せざるを得ない状況でした。

1994年のFIFAワールドカップ・アフリカ予選では、最終予選に進出し、モロッコ、セネガルと同組になりました。1993年4月、セネガル代表戦に向け、ザンビア代表は老朽化した空軍機で移動することとなりました。

事故の経緯

ザンビア空軍のDHC-5バッファロー輸送機（機体番号AF-319）は、1975年に初飛行し、事故の5ヶ月前まで使用されていませんでした。セネガル遠征前の試験飛行でエンジンの異常が見つかりましたが、予定通り出発しました。一行はコンゴ共和国のブラザヴィル、ガボンのリーブルヴィル、コートジボワールのアビジャンを経由してセネガルに向かう予定でした。しかし、コンゴ共和国から領空侵犯を指摘されたため、直接ガボンに向かうこととなりました。

リーブルヴィルで給油と休憩後、離陸直後に左エンジンが故障。機体は推進力を失い、リーブルヴィル空港沖500mの地点に墜落しました。乗っていたザンビア代表選手18名、監督、スタッフ、乗組員など30名全員が死亡しました。

軍用機であったため、ブラックボックスが搭載されておらず、事故調査は難航しました。ガボン国防省の調査では、左エンジンの欠陥が原因とされました。また、操縦士の疲労が誤操作を招き、正常な右エンジンを停止させたことも墜落の原因とされています。

ザンビア政府は航空事故の完全な報告書を公表しておらず、遺族は報告書の公開を求めています。

犠牲者

この事故で、ザンビア代表の選手、監督、協会関係者、記者、乗組員など30名が犠牲となりました。犠牲者には、ザンビアサッカー協会会長のマイケル・ムワペ、モスクワオリンピック代表で監督のゴッドフリー・チタル、ソウルオリンピック代表の選手6名、若手有望選手などが含まれていました。一方、エースストライカーのカルシャ・ブワルヤはオランダから直接セネガルへ向かう予定だったため、ミッドフィールダーのチャールズ・ムソンダは所属クラブが招集を拒否したため難を逃れました。

各国の反応と影響

ザンビアでは、フレデリック・チルバ大統領が7日間の服喪を宣言。国民は深い悲しみに包まれました。ザンビア代表を長年育成してきたカウンダ元大統領も、この悲劇に大きな衝撃を受けました。

ガボンでは、犠牲者の遺体移送の際、多くの市民が弔意を示しましたが、一部からは事故対応に税金が使われることに不満の声も上がりました。

ザンビア代表の再建

事故後、ザンビア代表はブワルヤを中心に再建されました。この頃から、「チポロポロ（弾丸）」という応援歌が歌われるようになり、代表チームの愛称も「チポロポロ」と呼ばれるようになりました。

ワールドカップ予選では、最終戦でモロッコに敗れ、出場を逃しました。しかし、翌年のアフリカネイションズカップでは準優勝を果たすなど、再起への道を歩み始めました。

国際関係

事故調査を巡り、ザンビアとガボンの間には遺恨が残りました。ザンビア国内では、「ガボン」という言葉が侮辱語として使われるようになりました。

遺族補償

2002年、ザンビア政府は遺族に対し、400万ドルの補償金を支払うことを発表しました。

その後

2012年のアフリカネイションズカップでは、ザンビア代表が18年ぶりに決勝進出を果たし、初優勝を飾りました。決勝戦前には、カルシャ・ブワルヤ会長らが事故現場に近いリーブルヴィルの浜辺を訪れ、犠牲者を追悼しました。

ガボン航空惨事は、ザンビアサッカー界だけでなく、国家全体に大きな傷跡を残した悲劇でした。しかし、この悲劇を乗り越え、ザンビア代表は新たな歴史を刻んでいます。

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