イリュリア

イリュリア王国：バルカン半島の古代文明

古代ギリシア・ローマ時代に、現在のバルカン半島西部に存在したイリュリア王国。イリュリア語を話すイリュリア人によって築かれ、共和政ローマによって滅ぼされたこの王国は、その全貌はいまだ謎に包まれています。考古学的な発見や古代の文献からは断片的な情報しか得られず、王国の正確な領域や勢力範囲、さらには国境線すら曖昧な部分が残されています。例えば、言語的にはイリュリア人に分類されるダルマティア地方も、イリュリア王国に属した期間は短期間に過ぎませんでした。

イリュリア人の起源と生活

考古学の研究によれば、イリュリア人の祖先は青銅器時代初期にこの地に定着し、先住民族と混血したと考えられています。この混血によって、アウタリティア、ダッサレティア、セリドネス、タウランティなどの様々な部族が形成されました。ダルマティア人やパンノニア人も、イリュリア部族としてしばしば分類されます。

イリュリア人の生活は、主に農業と牧畜、そして銅や鉄の採掘と交易に依存していました。牛や馬を飼い、農作物を育て、自ら作った道具を交易することで生活を営んでいました。部族社会では、年長者の会議によって族長が選ばれていました。リュブリャナで発見された彫刻壁画には、いけにえの儀式や祝宴、戦闘、スポーツなど、当時のイリュリア人の様々な活動の様子が描かれています。バルカン半島西部に定着した彼らでしたが、イタリアへの集団移住も時折発生していました。

イリュリア王国の興亡

イリュリアの部族たちはしばしば互いに争い、短命な王国が繰り返し成立と崩壊を繰り返していました。紀元前5世紀頃には、勢力範囲は北のスロベニアのサヴァ川付近まで拡大しました。

紀元前4世紀、バルデュリス王の台頭によってイリュリア王国は強大化し、リッソス（現在のアルバニアのレジャ）やエピダムノス（ドゥラキウム、現在のアルバニアのドゥラス）が主要都市として栄えました。紀元前359年にはマケドニア王国に侵攻し、ペルディッカス3世を倒して一時的にマケドニアの一部を支配下に置きましたが、ピリッポス2世の反撃によって敗れ、マケドニアはオフリド湖までの領土を取り戻しました。アレクサンドロス大王の時代にも、クレイトス率いるイリュリア勢力が抵抗を試みましたが、失敗に終わりました。しかし、アレクサンドロスのペルシア遠征にはイリュリアの指導者や兵士も参加しています。

アレクサンドロスの死後、イリュリア王国は独立を回復しました。グラキアス王は紀元前312年にエピダムノスからギリシア人を追放しました。3世紀末には、首都をシュコドラ（現在のアルバニアのシュコドラ）付近に移し、アルバニア北部、モンテネグロ、ヘルツェゴビナを支配下に置きました。

テウタ女王の治世（紀元前231年～紀元前228年）には、イリュリアの海賊がアドリア海でローマの商船を襲撃し、ローマとの間に戦争（第一次・第二次イリュリア戦争）が勃発しました。紀元前180年にはダルマティアが独立を宣言。最後の王ゲンティウスの時代、ローマの侵攻を受け（第三次イリュリア戦争）、紀元前168年に首都スコドラが陥落し、ゲンティウス王はローマに捕らえられました。その後、イリュリアはローマの属州イリュリクムとなりました。

ローマ属州化後とイリュリアの名の継承

6年には大規模な反乱が発生しましたが、ティベリウスによって鎮圧されました。10年にはイリュリクムはダルマティアとパンノニアに分割されました。3世紀には、クラウディウス・ゴティクス、アウレリアヌス、ディオクレティアヌスなど、イリュリア出身のローマ皇帝が現れました。その後、「イリュリア」という名称は徐々に使われなくなりましたが、ナポレオンによってフランス領イリュリア州として一時的に復活しました。ウィーン会議後、オーストリア帝国の支配下に入り、1849年までイリュリア王国と呼ばれました。19世紀には、南スラブ民族の自立運動の中でイリュリアの名が再び登場しましたが、これは歴史的誤解に基づくとされ、衰退しました。シェイクスピアの『十二夜』など、文学作品にもイリュリアの名は登場し、半ば空想の国として描かれています。

イリュリア人の宗教

イリュリア人の埋葬方法は、古墳葬が一般的でした。古墳の高さは身分によって異なり、発掘調査からは多くの副葬品が発見されています。人身供犠の習慣もあったと伝えられています。リゾン（現在のモンテネグロのリサン）では、都市の守護神メダウラスを祀っていました。

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