クテシフォン

クテシフォン：東西文明の交差点

イラクに位置するクテシフォンは、古代都市として知られ、パルティア帝国とサーサーン朝ペルシアの首都を務めた歴史を持つ都市です。バグダードの南東約30km、チグリス川東岸に位置し、豊かなメソポタミア平原の中心に栄えました。ローマ帝国と中国を結ぶ重要な交易路として、東西文化交流の中心地でもありました。

建造と地理

紀元前1世紀頃、パルティア王国によって建設されたクテシフォンは、紀元前2世紀半ばにはパルティア王国の首都となりました。日干し煉瓦を用いた建築様式や、ローマの水道橋に見られるようなアーチ技術など、東西の建築技術が融合した遺跡が数多く発見されています。現在、サーサーン朝の宮殿であるタク・カスラが主要な現存建造物として知られています。チグリス川西岸にあったセレウキアと併せて、クテシフォン・セレウキアと呼ばれることもありました。

呼称の変遷

クテシフォンの名称は、古代ギリシア語のΚτησιφῶν（Ktēsiphôn）に由来します。このギリシア語名は、TosfōnやTosbōnといった発音から派生したと考えられています。時代や言語によって、パフラヴィー語、マニ教文書、ソグド語、近世ペルシア語、シリア語、アラビア語、アルメニア語など、様々な表記で記録されています。アッバース朝時代以降は、アル＝マダーイン（複数形の都市）という名称でも呼ばれるようになりました。さらに、旧約聖書『エズラ記』にはKasfia/Casphiaという表記も見られます。

歴史

パルティア時代

パルティア王国が勢力を拡大する中、ミトリダテス1世はセレウキアの対岸にクテシフォンを建設しました。オロデス2世の治世には、王宮はセレウキアからクテシフォンに移され、都市圏はセレウキアや周辺集落にまで拡大しました。ティグリス川沿いの交易拠点としての重要性も増し、ローマ帝国の東方進出に伴い、軍事的な目標にもなりました。ローマ帝国（または東ローマ帝国）によるクテシフォンの占領は5回に及び、トラヤヌス帝、アウィディウス・カシウス、セプティミウス・セウェルスらがクテシフォンを占領し、略奪や住民の連行を行いました。

サーサーン朝時代

224年、サーサーン朝のアルダシール1世がクテシフォンを占領し、226年にはここで戴冠式を行い、クテシフォンを首都としました。サーサーン朝時代も、クテシフォンはローマ帝国との係争地となり、幾度も戦争の舞台となりました。627年には、東ローマ皇帝ヘラクレイオスがクテシフォンを包囲しましたが、和平を結んで撤退しました。しかし、637年、アラブ軍による征服により、サーサーン朝は滅亡し、クテシフォンの支配も失われました。ヤズデギルド3世は北東のフルワーンまで逃亡しました。ムスリム軍は、チグリス川を渡河し、クテシフォンを陥落させました。

サーサーン朝時代の経済と文化

サーサーン朝全盛期の6～7世紀には、クテシフォンは繁栄を極めました。旧市街の白の宮殿やタク・カスラ、セレウキアのヴェー・アルダシール地区を中心に、多様な文化が融合した都市として発展しました。サーサーン朝はイランの後継者として、中世ペルシア語文学の中心地にもなりました。宗教的には、セム系住民が多く、キリスト教、ユダヤ教、マンダ教、グノーシス主義などが流行し、ゾロアスター教は少数派でした。サーサーン朝は寛容な宗教政策をとる一方、ゾロアスター教神官カルティールによる迫害もありました。特にキリスト教は、ローマ帝国の政策の影響を大きく受けました。

クテシフォンのその後

アラブによる征服後、クテシフォンは政治・経済の中心地ではなくなりましたが、人口が減少したわけではありませんでした。762年にアッバース朝がバグダードを首都にすると、クテシフォンの衰退は加速し、やがて廃墟と化しました。1915年の第一次世界大戦においては、クテシフォンの遺跡が戦場となり、「クテシフォンの戦い」が繰り広げられました。

参考文献

木畑洋一、深見純生、松浦義弘、伊藤敏雄、江川ひかり、貴堂嘉之、澤田典子、平野聡 ほか「西アジアと地中海周辺」『世界史探求』実教出版、東京、2023年7月13日
青木健『新ゾロアスター教史』刀水書房〈刀水歴史全書〉、2019年3月29日
* Shally-Jensen, Michael、Vivian, Anthony 著、大城道則 訳『失われた都市・文明百科事典』（初版）柊風舎、2024年5月10日

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