ガロ・イェプレミアン

ガロ・イェプレミアン：異色の経歴を持つNFLの名キッカー

ガラベッド・サーキス・“ガロ”・イェプレミアン（Garabed Sarkis "Garo" Yepremian, 1944年6月2日 - 2015年5月15日）は、キプロス出身のアメリカンフットボール選手、モティベーション・スピーカー。プレースキッカーとしてNFLで15年間活躍し、特にマイアミ・ドルフィンズでの輝かしい実績で知られています。

波乱万丈なプロ入りまで

アルメニア人の両親のもとキプロスに生まれたイェプレミアンは、1963年のキプロス内戦を機にイギリスへ移住。ロンドンでネクタイ職人として働く傍ら、セミプロのサッカーチームでプレーしていました。

転機が訪れたのは、アメリカで法律を学んでいた兄・クリコールの存在でした。クリコールはカレッジフットボールの試合を見て、弟のキック力に着目。「これなら弟の方が上だ」と感じ、ガロをアメリカへ呼び寄せようとします。

しかし、ガロは大学からの奨学金を得る資格を満たせませんでした。そこでクリコールは、ガロをプロのプレースキッカーとして売り込むことを決意。当時、プレースキッカーは専門職として確立されつつあり、サッカー経験者のキッカーが台頭してきた時代でした。クリコールはガロの代理人として、1966年にNFLのデトロイト・ライオンズに売り込む機会を得ます。そのキック力が見込まれ、ガロはアメリカンフットボール未経験ながら、ライオンズへの入団を勝ち取ったのです。

プロキャリア：数々の珍プレーと輝かしい実績

1966年10月13日、イェプレミアンはデトロイト・ライオンズと契約。しかし、フットボールの知識は皆無に等しく、最初の練習ではショルダーパッドを前後逆に着てしまい、顔が半分隠れてしまうというハプニングも。また、コイントスの際にヘッドコーチの言葉を勘違いして、フィールドでコインを探し回るなど、数々の珍事を起こしました。

NFL最後の「フェイスマスクなしヘルメット」の選手でしたが、試合で負傷し、シングルバーフェイスマスクを装着するようになりました。大差で負けている試合で、タッチダウン後のエクストラポイントを決めた際には、派手なガッツポーズを見せ、チームメイトに「何を祝っているんだ？」と問われ、「I keek (kick) a touchdown」と答えたエピソードは、彼のブロークン・イングリッシュとフットボールへの無理解を象徴するものとして、テレビ番組でも取り上げられました。

ルーキーイヤーには、1試合6フィールドゴールというNFL記録を達成。その後、ベトナム戦争の影響で一時的にセミプロリーグでプレーするも、1970年にマイアミ・ドルフィンズへ移籍。

ドルフィンズでは、1971年にNFL最多得点を記録。カンザスシティ・チーフスとのプレーオフでは、ダブルオーバータイムの末に決勝FGを成功させました。1972年のドルフィンズのパーフェクトシーズンでは、得点源として重要な役割を果たし、スーパーボウルにも3回出場するなど、1970年代を通して活躍しました。1973年のプロボウルではMVPに選出されています。

その後、ニューオーリンズ・セインツ、グリーンベイ・パッカーズを経て、タンパベイ・バッカニアーズで1981年に引退。通算で210本のフィールドゴール、444本のエクストラポイントを決め、1074得点を記録しました。

Garo Yepremian’s Pass：スーパーボウルの悪夢

15年間の現役生活で最も有名なプレーは、1972年の第7回スーパーボウルで起こりました。ワシントン・レッドスキンズとの対戦で、14-0とリードしていたドルフィンズは、残り3分でフィールドゴールを狙います。

しかし、キックはブロックされ、跳ね返ったボールはイェプレミアンの元へ。ここで彼は、なぜかボールを投げようとします。ボールは真上に上がり、レッドスキンズの選手に奪われ、タッチダウンを許してしまうのです。

このプレーは「Garo Yepremian’s Pass」として、NFL史に残る珍プレーとして語り継がれています。しかし、ドン・シュラからの信頼は揺るがず、イェプレミアンはその後もドルフィンズの得点源として活躍しました。

引退後：モチベーション・スピーカーとして

引退後は、そのユニークなキャラクターを活かし、モチベーション・スピーカーとして活動。また、映画「Paper Lion」やテレビ番組「The Odd Couple」にも出演するなど、幅広い分野で活躍しました。

ガロ・イェプレミアンは、アメリカンフットボールの知識は乏しかったものの、天性のキック力と愛嬌で多くのファンを魅了しました。彼の波乱万丈なキャリアは、今もなお語り継がれています。

もう一度検索