ドン・シュラ

ドナルド・シュラ：NFL史に輝く名将

ドナルド・フランシス・シュラ（Donald Francis Shula、1930年1月4日 - 2020年5月4日）は、アメリカンフットボールの選手、そして伝説的なヘッドコーチとして、その名をNFLの歴史に深く刻みました。オハイオ州グランドリバー出身の彼は、選手としてNFL入りし、その後コーチとして数々のチームを率い、特にマイアミ・ドルフィンズでの輝かしい実績で知られています。息子のデイブ・シュラもまた、シンシナティ・ベンガルズでヘッドコーチを務め、親子二代でNFLの指導者として活躍しました。

選手から名コーチへ

シュラはディフェンシブバックとしてNFLでのキャリアをスタートさせました。しかし、その真価はコーチとして発揮されます。ボルチモア・コルツでのコーチ経験を経て、マイアミ・ドルフィンズのヘッドコーチに就任。長年にわたりチームを率い、2度のスーパーボウル制覇という偉業を成し遂げました。特に1972年シーズンには、NFL史上唯一となるシーズン無敗でのスーパーボウル制覇を達成し、その名を不朽のものとしました。ボルチモア・コルツ時代と合わせると、合計6回スーパーボウルに出場しています。

卓越した手腕と記録

1963年シーズンにボルチモア・コルツのヘッドコーチに就任してから、1995年シーズンオフにマイアミ・ドルフィンズのヘッドコーチを退任するまでの33シーズンで、負け越したシーズンはわずか2シーズンのみ。通算成績は328勝156敗6分という驚異的な数字を誇ります。ヘッドコーチとして526試合を指揮し、プレーオフを含めると347勝を挙げており、これはシカゴ・ベアーズのジョージ・ハラスを23勝も上回る記録です。彼の率いたチームは21シーズンで10勝以上を挙げ、プレーオフには19回出場。コルツ時代には3回最優秀コーチに選ばれています。NFLで300勝以上を挙げたヘッドコーチは、2019年シーズン終了時点で、シュラの他にジョージ・ハラスとビル・ベリチックのみという、まさにレジェンドと言える存在です。バッファロー・ビルズを4年連続でスーパーボウルに導いたマーブ・リービーは、シュラをプロフットボール史上最も偉大なコーチであると評価しています。

1997年にはプロフットボール殿堂入りを果たし、その功績は永遠に称えられています。彼がコーチとして指導した3人のクォーターバック（QB）、ジョニー・ユナイタス、ボブ・グリーシー、ダン・マリーノも殿堂入りを果たしており、彼の指導力の高さが伺えます。また、NFLのルール改正にも長年関わり、レシーバーに対する守備選手のホールディングの反則のルール改正に貢献。これにより、オフェンスが有利となり、NFLの試合がハイスコア化、パス全盛の時代へと移行するきっかけを作りました。

2020年5月4日、シュラは90歳でその生涯を閉じましたが、彼の残した功績は、アメリカンフットボールの歴史の中で永遠に語り継がれることでしょう。

生い立ちと選手時代

エリー湖のほとり、オハイオ州北東部の小さな町グランドリバーで生まれたシュラ。両親はハンガリーからの移民で、幼い頃にアメリカへ渡りました。高校時代はシングルウィングオフェンスの左ハーフバックとして活躍し、最終学年にはチームを7勝3敗という好成績に導きました。これは高校にとって18年ぶりの快挙でした。

ジョンキャロル大学に進学後、1948年のヤングスタウン州立大学戦で、先発ハーフバックの負傷により出場機会を得ると、175ヤード、2タッチダウンという目覚ましい活躍を見せました。最終学年の1950年には、強豪シラキューズ大学戦で125ヤードを走り、勝利に貢献しました。

1951年に大学を卒業後、NFLのクリーブランド・ブラウンズからドラフト9巡目で指名を受け、プロの道へ進みます。ディフェンシブバックとして全12試合に出場し、10月には先発としても起用され、4インターセプトを記録しました。この年、チームはNFLチャンピオンシップゲームに進出しましたが、ロサンゼルス・ラムズに敗れました。その後、朝鮮戦争の影響もあり、1952年1月にオハイオ州軍に所属。1952年11月にブラウンズに復帰し、シーズン終盤の5試合に出場しました。この年もブラウンズはNFLチャンピオンシップゲームに進出しましたが、デトロイト・ライオンズに敗れました。

1953年、大型トレードでボルチモア・コルツへ移籍。コルツ加入直前には、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で修士号を取得しています。1953年に創設されたコルツは、その年3勝9敗に終わりましたが、シュラは3インターセプトを記録しました。1954年には、ブラウンズのアシスタントコーチを務めていたウィーブ・ユーバンクがヘッドコーチに就任。シュラは自己ベストの5インターセプトを挙げました。1955年にも5インターセプトを記録。1956年には、後にプロフットボール殿堂入りするジョニー・ユナイタスが控えQBとしてコルツに加入しました。1957年のトレーニングキャンプ終了後、コルツから解雇され、その後ワシントン・レッドスキンズと契約。1年プレーした後、現役を引退しました。NFL通算73試合に出場し、21インターセプト、4ファンブルリカバーの成績を残しました。

コーチとしての歩み

現役引退後、1958年2月にバージニア大学のディフェンシブバックコーチに就任。1959年にはケンタッキー大学のディフェンシブバックコーチを務めました。1960年には、デトロイト・ライオンズのディフェンシブバックコーチに就任。ジョージ・ウィルソンヘッドコーチのもとでコーチを務めた1960年から1962年までの3シーズン、チームは毎年勝ち越し、1961年、1962年はNFL西地区で2位となりました。1962年には、ライオンズのディフェンスは失点でリーグ2位、喪失ヤードでリーグ1位となりました。この年のライオンズには、ロジャー・ブラウン、アレックス・カラス、ダリス・マコード、サム・ウィリアムズら、"フィアサム・フォーサム"と呼ばれた強力なディフェンスラインが存在しました。

1963年、ボルチモア・コルツのヘッドコーチ、ユーバンクが解雇され、シュラがヘッドコーチに就任。当時33歳という若さで、NFL史上最年少ヘッドコーチとなりました。デビュー戦となったニューヨーク・ジャイアンツ戦は敗れたものの、翌週の試合に勝利。この年、チームは8勝6敗でNFL西地区3位となりました。1958年、1959年にNFLチャンピオンとなったコルツのこの年の主力はQBジョニー・ユナイタス、WRレイモンド・ベリー、TEジョン・マッキー、DEジーノ・マーチェッティでした。

ドルフィンズでスーパーボウルを制覇するまでの間、シュラ率いるチームはレギュラーシーズンは好成績を収めるものの、大舞台での敗退が続きました。

2年目の1964年、チームは12勝2敗の成績を挙げてNFL西地区で優勝しましたが、クリーブランド・ブラウンズとのNFLチャンピオンシップゲームでは0-27で敗れました。シュラはこの年、最優秀コーチに選ばれました。

1965年、チームは10勝3敗1分でグリーンベイ・パッカーズと同率となりましたが、プレーオフで敗れNFLチャンピオンシップゲーム出場を逃しました。

スーパーボウルが初開催される1966年にも、チームはNFL西地区2位となりました。

1967年には11勝1敗2分の成績を挙げましたが、同率成績のロサンゼルス・ラムズの方が総得点が多く、プレーオフ出場を逃しました。コルツがこの年敗れた相手は、シーズン最終週に敵地ロサンゼルス・メモリアル・コロシアムで行われたラムズ戦のみでした。この年も彼は最優秀コーチに選ばれました。また、ユナイタスがこの年も最優秀選手に選ばれました。

1968年、ユナイタスが肘を負傷し、控えQBのアール・モラルが代役を務めました。チームは13勝1敗の成績を挙げ、ウェスタン・カンファレンスチャンピオンシップでミネソタ・バイキングスを破り、翌週のNFLチャンピオンシップゲームではクリーブランド・ブラウンズを34-0で破りました。第3回スーパーボウルではニューヨーク・ジェッツと対戦、コルツ圧倒的有利と予想されていましたが、ジョー・ネイマスが勝利を保証したジェッツに7-16で敗れました。

1969年もコルツでヘッドコーチを務めましたが、8勝5敗1分でプレーオフを逃しました。コルツでは7シーズンで71勝23敗4分の成績を挙げましたが、プレーオフでは2勝3敗でした。

1969年シーズン終了後、マイアミ・ドルフィンズのヘッドコーチに就任。このとき、彼の契約にはタンパリングがあったと判断され、ドルフィンズはコルツに1971年のドラフト1巡指名権を渡しました。

1966年に創設されたドルフィンズは、彼が就任するまでの4年間で15勝しか挙げられない弱小チームでした。NFLと統合される前のAFLでの最後のシーズンは、3勝10敗1分の成績でした。

1970年、チームは10勝4敗の成績を挙げて、初のプレーオフに進出しました。

ドルフィンズには、ラリー・リトル、ジム・ランガー、ボブ・キューヘンバーグら強力なオフェンスライン、ラリー・ゾンカ、ジム・キイク、マーキュリー・モリスによる強力なラン攻撃、ボブ・グリーシー、アール・モラルのクォーターバッキング、ポール・ウォーフィールド、ハワード・トワイリー、ジム・マンディッチの存在、マニー・フェルナンデス、ニック・ブオニコンティらを擁したノーネームディフェンスと呼ばれる強力なディフェンスがありました。

ドルフィンズでシュラは1971年（第6回）、1972年（第7回）、1973年（第8回）、1982年（第17回）、1984年（第19回）と5回スーパーボウルにチームを出場させました。最初の4回は強力なラン攻撃と守備が売りのチームでしたが、1983年のドラフトでダン・マリーノを獲得してからは、パス攻撃がチームの売りとなりました。1984年、マリーノは当時のNFL記録となる5,084ヤードを投げて48タッチダウンを挙げました。

無敗優勝と栄光の時代

ドルフィンズのヘッドコーチに就任して3年目の1971年、チームは10勝3敗1分で第6回スーパーボウルに進出しましたが、ダラス・カウボーイズに3-24で敗れました。

1972年、ドルフィンズはレギュラーシーズンを14勝0敗、ポストシーズンも3連勝して、スーパーボウルまでの17試合を全て勝利。スーパーボウルを無敗で制覇した唯一のチームとなりました。この年、エースQBのボブ・グリーシーが5試合目で負傷し、38歳のベテランQBアール・モラルが交代出場。その後レギュラーシーズン残り試合全てで先発しましたが全勝、プレーオフのクリーブランド・ブラウンズ戦でもモラルが先発しました。グリーシーは、ピッツバーグ・スティーラーズとのAFCチャンピオンシップゲームで交代出場、第7回スーパーボウルでは先発に復帰しました。

翌年もスーパーボウルを連覇しましたが、1974年のディビジョナルプレーオフ、オークランド・レイダース戦、試合時間残り35秒にケン・ステイブラーに逆転タッチダウンパスを通され26-28で敗れました。翌年は新リーグのワールド・フットボール・リーグにゾンカ、キイク、ウォーフィールドの主力3名が契約し退団したこともありチーム成績は低下しましたが、1980年代にも2度スーパーボウルにチームを導きました。

ストライキで短縮された1982年、第17回スーパーボウルに進出しましたが、ワシントン・レッドスキンズに17-27で敗れました。

1983年のドラフトでダン・マリーノを獲得。マリーノは2年目の1984年に数々のパス記録を樹立し、チームは第19回スーパーボウルに進出しましたが、サンフランシスコ・フォーティナイナーズに16-38で敗れました。

1994年、ディビジョナルプレーオフでサンディエゴ・チャージャーズに21-22で敗れました。

ドルフィンズでの最後となった1995年、開幕前にエリック・グリーン、ランダル・ヒル、トレース・アームストロング、テレル・バックリーと4人の元ドラフト1巡指名選手を獲得しました。プロボウルに選ばれた7人の選手、マリーノ、バイアース、アービン・フライヤー、リッチモンド・ウェブ、キース・シムズ、ジェフ・クロス、ブライアン・コックスの存在もありAFCのベストチームと見られていました。

ドルフィンズでの26シーズン中、勝率が5割を割ったのはわずか2回でした。

ヘッドコーチ退任後は、ゴルフを楽しんだり、ホテルやゴルフ場、ステーキハウスチェーンなどの経営を行いました。

1996年にドルフィンズのオナー・ロールに加わりました。

無敗でスーパーボウルを制した30年後の2003年1月26日に行われた第37回スーパーボウルではコイントスを務めました。

2007年にドルフィン・スタジアムで行われた第41回スーパーボウルではヴィンス・ロンバルディ・トロフィーのプレゼンテーターを務めました。

2008年2月3日の第42回スーパーボウルではオープニングのセレモニーに出席しました。

2010年の80歳の誕生日には、ドルフィンズはホームスタジアムで彼の誕生パーティーを開催、元上院議員のボブ・グレアムやライバルチームのヘッドコーチであったマーティ・ショッテンハイマー、ダン・リーブスが招待されました。

最初の妻のドロシー・バーティシュは32年間の結婚生活の後、1991年に死去しました。1993年のシーズン中、メアリー・アン・スティーブンスと再婚しました。

息子のデイブ・シュラ、マイク・シュラも指導者となり、デイブはシンシナティ・ベンガルズで、マイクはアラバマ大学でヘッドコーチを務めています。ドン・シュラがヘッドコーチになったのは33歳の時ですが、デイブも32歳、マイクは37歳でヘッドコーチに就任しました。

もう一度検索